先生:成瀬宇平/鎌倉女子大学名誉教授
医学博士。1935年福島県生まれ。大学では調理学全般を教えていたが、とくに魚については造詣が深い。『科学でわかる魚の目利き』『酒とつまみの科学』などの料理や食材に関する著書多数。
旬のサンマや秋ザケなど、脂ののった魚の塩焼きが美味しい季節である。塩焼きは塩をふって焼くだけという、まさにシンプル・イズ・ベストの料理。魚を焼く前に、魚に塩をふることを「ふり塩」というが、このふり塩、単に魚に塩味をつけるだけではないのをご存じだろうか。
――ふり塩にはどんな狙いが?
先生 味付けの効果もありますが、そのほかにも3つほど効果があります。身に弾力が出てくる、旨味が増す、生臭さを抑える、です。それを1つずつご説明しましょう。
ふり塩をすると、塩の浸透圧の作用で塩分が魚の内部に入っていきます。魚の身は塩をふる前はほぐれやすい状態なのですが、塩の作用で魚の身のタンパク質(魚肉タンパク質)が変成し、ゾル化してのり状になります。これを焼くことにより固まって弾力が出てきます。
――塩のおかげで、焼いても身崩れしにくくなるのですね。
先生 塩をふり、しばらく置くことにより旨味も増します。本来、タンパク質自体には味はありません。ふり塩をして、しばらく置くことでタンパク質分解酵素が働き、タンパク質がグルタミン酸や旨味のあるアミノ酸に変化します。魚の干物の旨味が深くなる原理です。
――魚になにげなく塩をふっていましたが、味に大きな影響があるのですね。
先生 そのほかに生臭みが除かれる効果もあります。塩の脱水作用で魚の表面の水分が溶け出てくるんですが、そのとき魚に含まれるトリメチルアミンなどの生臭い成分も一緒に出ていくのです。
――ふり塩の量や焼くまでに置く時間はどれくらいがいいのでしょうか?
先生 塩がまわるのにかかる時間は、魚の種類や大きさ、身の厚み、脂肪の量などによって異なります。一般に青魚は塩のまわりが遅く、白身魚は塩のまわりが早いです。
――青魚の場合の目安は?
先生 青魚といえばサンマやマサバ、アジなど。これらが塩のまわりが遅くなるのは皮の下にも身にも脂肪分が多いためです。また、トリメチルアミンなどの生臭さも強いので、塩を多めにふってある程度時間を置いてから焼くほうが臭みもなくなります。塩の量の目安は、魚の重さの3~4%。20~30分置くといいでしょう。
――白身魚の場合は?
先生 こちらは比較的脂肪分が少なく生臭さもあまりないので、塩は少なめであまり時間を置かなくてもいいです。塩の量は魚の重さの約2%。5~10分置いて焼くとよいでしょうね。川魚は脂が少ないので白身魚と同様塩は少なくていいでしょう。
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