■非専門医が診断の主体 「問題は、ここにいる学会の会員は、てんかん患者の2~3割しかカバーしていないんじゃないかということ。運転してはいけない発作があるのに、医師の能力が足りずに(運転してしまっていて、非専門医など)医師の側に責任のある場合もある」
運転免許制度の課題に関する発表に対し、会場から上がった声。「適切に診断されていない」「てんかんと診断されずに運転している」患者の存在は、どの演目でも共通認識だった。その背景には、100万人とも言われる患者数に対し、専門医が400人に満たない現状がある。
運転免許取得時の申告では、主治医による診断書か、指定医療機関による臨時適性検査の結果が必要だが、実際は98%が主治医診断書によるもの。講演では、不安障害と診断され、服薬治療を続けた後に検査を受けに来た患者や、2年以内に発作があったにもかかわらず、てんかんと診断されていないケースなどが紹介された。高齢者では、認知症と診断される例も多いという。
■医師による無申告患者通報制度
昨年、栃木県鹿沼市で起きたてんかん患者による交通死亡事故を受け、政府では、てんかんを含む「一定の病気等に係る運転免許制度の在り方に関する有識者検討会」を開いている。この中で、医師による無申告運転免許取得患者の警察への通報義務が検討されており、この議論も紹介された。
検討会の事務局を務める警察庁運転免許課の廣田耕一課長は、患者による自己申告を増やす方法として、「医師による通報は、鹿沼の事故の遺族会が求めているところ」と説明。一方、検討会では「医師と患者の信頼関係が損なわれる」「患者が本当のことを言わなくなり、治療から遠ざかることで余計に危険な運転者が増える」といった意見があると紹介した。通報制度は、義務ではなく、任意として法に位置付ける案もあるという。
これについて、てんかん学会法的問題検討委員会の西田拓司委員は、学会員を対象にしたアンケートで、「免許を取得しないよう再三の忠告に対し、患者が従わない場合」の任意の通報制度に対し、賛成意見が50~60%(診療科により異なる)だったことを報告。今後の議論課題だとまとめた。
他の演題では、患者の運転免許取得について「院外に第三者の相談機関を設けるべき」「車には必ずドライブレコーダーをつけるよう勧めている」とアイデアを出す会員もおり、患者の生活面での対応で、苦慮している医師の姿が見られた。