◇低年齢化、長期化、少ない専門医/チーム医療、欧米で効果
拒食、過食など食行動が異常になる摂食障害が、ダイエット志向とともに若い世代にさらに広がっている。しかし医療体制、治療方法は十分に整っていない。このため専門医が中心になって公的専門機関「摂食障害センター」設立を目指している。やせ願望からだれもが陥る可能性のある摂食障害の現状を調べた。【小川節子】
花柄のワンピースにおそろいのシュシュで現れた愛さん(31)=仮名=は目が大きくスレンダーな美人。今は身長157センチ、体重42キロだが一時は35キロを切るまでやせていた。
高校3年で部活を引退するまでは筋肉質で体重は55キロあった。受験勉強を機にダイエットを意識し、「食べ過ぎたら吐けばいい」と言う友人の言葉を試したところ、心身ともにすっきりした。
朝食と昼の弁当の量を減らし、夕食はおかわりをするほど食べた後、指を口に入れて吐き出した。志望の国立大学に入学したころには毎日食べて吐く生活に。大学2、3年で35キロを切り、月経もなくなった。自分への嫌悪感から自殺を試みたこともあった。
「一人っ子だったせいか、幼いときから親や周囲の友だちから常にいい子だと思われたかった。親の顔色を絶えずうかがい、自分がしたいこと、楽しいことがわからなかった」と振り返る。
成績、習い事、部活がよくできるのは当たり前、さらに上を目指し常にがんばった。そのつらさを吐くことで忘れられた。
心配した母親に連れられ専門医に行き、入院、治療を受けた。大学卒業後は事務職として働き続けた。自助グループへの参加、実社会でもまれ4、5年前から少しずつ体重が増え、月経も戻った。現在も週に1、2回は食べて吐くが、「自然に必要でなくなる時がくるだろう」と、自分を受けとめられるようになった。
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摂食障害は著しくやせる「拒食症」と、衝動的に大量の食品を食べる「過食症」がある。拒食症には、食べる量が極端に少なくなる型と、食べて吐く型の2種類がある。栄養失調などの合併症による死亡率が7~10%と高く、無月経、成長障害、骨粗しょう症といった後遺症が残ることもあり、リスクが高い。拒食症、過食症とも思春期の女性が発症することが多く、欧米先進国では4~5%、日本では0・2~0・5%程度いると推測されている。
87年から内科医として1500人の患者の治療にあたっている政策研究大学院大学、保健管理センター教授の鈴木眞理さんは、最近の傾向として低年齢化と、慢性化した患者の高齢化を指摘する。
「以前は中学生以上だったが、今は小学5、6年生にもみられる。専門医にたどり着く人は氷山の一角。ダイエットブーム、ストレス耐性の弱まりから広く蔓延(まんえん)し、長期化する傾向が強い」と分析する。
発症の要因としては挫折感が大きいとされる。完璧主義、理想への固執、融通が利かない優等生タイプに多く、人間関係のトラブル、ストレスに対処できなくなり、「やせる」ことに逃げる。10キロ、15キロとやせると前頭葉が縮小して感受性が鈍くなり、つらさを感じにくくなる。
「社会、親、自分の理想と闘うことがきつくなり、逃避するためにやせ続けます。このため、体重がほんの少しでも増えることに対する恐怖心が強い」と鈴木さんは話す。
本人は病気を自覚しにくく、治療を拒否しがちだ。生命にかかわる緊急時は、入院して点滴などで栄養を補給するが、効果のある薬、治療法は確立されていない。本人の考え方、ストレスへの対処法をカウンセリング、グループ療法で少しずつ変えていく。個人の状況に応じて最終体重を見極め、少しずつ増やすことが大切だ。
家族のサポート、学校や職場の理解と協力も必要だ。医師だけでなく臨床心理士、栄養士、就学や生活、職業支援などの部門と協力するチーム医療が効果をあげる。欧米ではこうした専門医療機関が数多くあるが、日本では各科の医師が個別に治療し、しかも施設数が少ない。
千葉県在住の好恵さん(36)=仮名=は15年前に拒食症になった。当初は内科、精神科など4、5軒の病院を受診したが、治療法がないと拒否されたという。現在は専門医に通い、少しずつ回復。35キロの体重が40キロになった。
「最初の段階で専門医にかかっていればここまで長期化することはなかった。どこに行けばいいかわからず悩んでいる人は多い」
鈴木さんは「センターでは全国の情報を集め、必要とする人たちが相談できる場にしたい。また、モデル治療を行い専門家を養成したい」と話す。
◇あす東京で講演会
日本摂食障害学会の会員が中心になって、2年前に「摂食障害センター」設立準備委員会が設立された。第1回の講演会を5日午後1時から、東京都港区六本木7の政策研究大学院大学想海楼ホールで開く。フィギュアスケーターの鈴木明子さんのビデオメッセージ、専門医のパネルディスカッション、疫学調査の発表などがある。入場料1000円。
氏名、連絡先を記入してファクス(03・6439・6219)か、メール(sayuri@grips.ac.jp)へ申し込む。
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■摂食障害チェックリスト
(全部にチェックした人は疑いあり)
◇拒食症
□標準体重の80%以下の状態が3カ月以上続いている
□月経が止まっている
□小食、過食など食行動がおかしいと周囲の人に言われる
□これ以上体重を増やすことに抵抗感がある
□内科的病気がない
◇過食症
□3カ月以内に「週最低2回」のむちゃ食いが何度かあった
□むちゃ食いの間、自己抑制ができない
□自己嘔吐(おうと)、下剤、利尿剤の使用、食事制限、絶食、激しい運動を行う
□体形、体重について関心があり過ぎる
□体重は正常
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※標準体重の計算式
身長160センチ以上の場合 (身長-100)×0.9
150~160センチ未満の場合 50+(身長-150)×0.4
150センチ未満の場合 身長-100
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/medical/20121004ddm013100011000c.html