“日本はワクチン後進国だ”と言われています。
今の日本のワクチン事情について、また、受けるべきワクチン、知っておくべきワクチン情報について、現役医師を中心に、Q&A方式で解説していく連載です。
2012年9月から、ポリオワクチンが経口の生ワクチンから皮下注射の不活化ワクチンに変更され、11月からは3種混合ワクチン(DPT)に不活化ポリオワクチン(IPV)が含まれた4種混合ワクチン(DPT-IPV)が開始される予定となり、メディアでもよくとりあげられるようになりました。
では、これから生まれてくる新生児や、すでに途中まで受けている子どもは、いったいどのようにワクチン接種計画を書けたらいいのでしょうか? ナビタスクリニック川崎小児科・小児循環器 河野一樹先生に解説してもらいます。
2012年9月より、定期接種のポリオワクチンは経口の生ワクチンから皮下注射の不活化ワクチンに変更になり、また11月からは3種混合ワクチン(DPT)に不活化ポリオワクチン(IPV)が含まれた4種混合ワクチン(DPT-IPV)が開始される予定です。
ここ数年、ヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンなどが日本国内で販売され、ワクチン後進国といわれている日本も、ようやく世界標準に近づきつつあります。
ワクチンの種類が増えて、予防できる感染症が増えたのは良いことです。一方、2歳まではワクチン接種の回数が増え、新たな悩みが生じました。何カ月目からワクチン接種を始めれば良いのか、また、効率的に接種をこなすには同時接種が良いと言われるが、はたして安全なのだろうかなど、お悩みの親御さんは少なくないと思います。
そこで今回は、小児科医の立場から、ベストと思うワクチンのスケジュールについて説明します。
Q1 9月に導入された不活化ポリオワクチン(IPV)とは?
すでに連載でもとりあげてきましたが(関連記事)、ポリオは、急性灰白髄炎や、小児麻痺とも呼ばれます。これはポリオウイルスが原因の病気のことです。
ウイルスが感染しても、ほとんどの人は風邪のような症状が出るだけです。ただし、ごく一部の人が手や足、呼吸筋など、身体の筋肉の一部を麻痺させる感染症です。
1960年代には日本でも大流行し、経口(口から飲む)生ポリオワクチン(OPV)がソ連から緊急導入され、流行を抑えることができました。このOPVの普及により、野生ポリオウイルスによるポリオの発生がなくなり、最近ではOPVの接種によりポリオを発生するワクチン関連麻痺性ポリオ(VAPP)が問題視されていました。
今回導入されたIPVは不活化ポリオワクチンといい、ウイルスそのものは入っておらず、ウイルスを殺して、免疫細胞に『ポリオウイルスは敵である』ことを覚え込ませるのに必要なウイルスの要素が含まれています。
生ワクチンであるOPVは、VAPPの発生頻度は非常に少ないです。しかし、生ワクチンでは、麻痺が永続するVAPP以外にも、一過性に麻痺を生じた児では、将来的にポストポリオ症候群(※1)を起こす可能性があり、安全ではありません。
VAPP発生リスクが『ゼロ』のIPVを導入することには、ポリオがほぼ根絶されている国では、当然のことなのです。
※1 ポストポリオ症候群:ポリオに罹患し一過性の麻痺を生じると、その後、病気が回復しても筋力低下などの麻痺が後遺症として残存する。罹患してから十年~数十年後に悪化しはじめ、全身的な症状、筋肉や骨関節の症状などが出現するような新たな機能障害のことをポストポリオ症侯群という。Q2 不活化ポリオワクチンは何回受ければいいの?
不活化ポリオワクチンの現時点での定期接種の回数は、初期免疫接種3回と、追加免疫接種1回の計4回接種です。
初期免疫は生後3カ月から開始でき12カ月までに3回、追加免疫の時期は、初期3回接種終了後、6カ月後以降となります。
なお、2012年11月から4種混合ワクチンも導入されるため、DPTワクチンに準ずると考えると良いでしょう。
また、4~6歳に再度追加接種(つまり5回目の接種)を導入した方が良いという意見もあり、現在検討されているところです。
Q3 生ワクチン(OPV)を接種している場合、不活化ワクチン(IPV)はどうしたらいい?
厚生労働省の提示しているスケジュールでは、以下のように決められています。
1. 生ポリオワクチン(OPV)をすでに2回接種している人不活化ポリオワクチン(IPV)接種の対象外になります。2. OPVを1回接種している人IPVの初期に2回、追加に1回の接種が必要となります。3. OPVを1回も接種していない人通常のIPVのスケジュール通り、初期に3回、追加に1回の接種が必要となります。 ところが、実際にはOPV2回接種を受けた人の免疫は不十分です。
厚生労働省が発表している、ポリオに対する抗体価の測定結果を示します。(参照元)。
ポリオウイルスには1~3型の3種類あります。野生のポリオウイルス感染症では、2型は根絶されており、1型と3型が問題となります。3型の抗体保有状況をご覧いただくと、全ての世代で免疫が低いことがわかります。つまり、乳幼児に限らず、OPVの接種を2回しか受けていない方は、ポリオに対する免疫は不完全なのです。。
米国のCDC(Center for Disease Control and prevention)では、OPVは3回受けるべきとされています。(参照元)。
日本でこれまで行われてきたOPV2回接種は、効果としては不完全です。ただし、OPV2回接種後にIPVを何回接種すれば十分な免疫が得られるのか、データがありません。適切な間隔をあけて4回接種すれば、どの組み合わせでも良いと「The Immunization Action Coalition」の「Vaccine Information for the public and health professionals:Polio Vaccine」に記載があります。ですから、OPV2回接種を受けた方は、2回IPVの接種を追加すると良いでしょう。
Q4 ワクチンは同時接種して大丈夫?
外来でよく問われることの一つですが、この問いに対しては、日本小児科学会から「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方」が出ています。原文の一部を引用します。
「日本国内においては、2種類以上の予防接種を同時に同一の接種対象者に対して行う同時接種は、医師が特に必要と認めた場合に行うことができるとされている。一方で、諸外国においては、同時接種は一般的に行われている医療行為である。特に乳児期においては、三種混合ワクチン、インフルエンザ菌b 型(ヒブ)ワクチン、結合型肺炎球菌ワクチンなどの重要なワクチン接種が複数回必要である。これらのワクチン接種がようやく可能となった現在、日本の子どもたちをこれらのワクチンで予防できる病気(VPD: Vaccine Preventable Diseases)から確実に守るためには、必要なワクチンを適切な時期に適切な回数接種することが重要である。そのためには、日本国内において、同時接種をより一般的な医療行為として行っていく必要がある。」 「同時接種について現在分かっていることとして以下のことがあげられる。[1]複数のワクチン(生ワクチンを含む)を同時に接種して、それぞれのワクチンに対する有効性について、お互いのワクチンによる干渉はない。[2]複数のワクチン(生ワクチンを含む)を同時に接種して、それぞれのワクチンの有害事象、副反応の頻度が上がることはない。[3]同時接種において、接種できるワクチン(生ワクチンを含む)の本数に原則制限はない。」(出典:「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方 」) 米国のCDCでも、複数種ワクチンの同時接種は、正常な免疫能を有する児に安全におこなうことができる、と記載しています(参照元)。ワクチンの専門家は、しばしば「常に何十類もの病原体にアタックされている免疫システムにとって、数種類のワクチンを同時に接種するなんて、海に塩を投げ入れるみたいなものだ」とたとえ話をします。むしろ、ワクチン接種を待っている間に感染して発病してしまうリスクの方が大きいと考えられています。
Q5 定期接種と任意接種について
現在、日本では定期接種と任意接種のワクチンがあります。小児科医の立場からは、接種しなくてよいワクチンはなく任意接種のワクチンも接種をお勧めします。
日本の予防接種制度は、世界的にみると遅れていてワクチン後進国といわれています。世界保健機関(WHO)は、ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、B型肝炎、ロタウイルスワクチンについて、すべての児が接種を受けるよう勧告しています(参照元)。
ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンは公費助成されている地域が多くなってきましたが、B型肝炎やロタウイルスについては、まだほとんどの地域で公費助成されていません。今後は、ヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンはもちろんですが、B型肝炎とロタウイルスのワクチンについても、費用負担なく接種が受けられるようになることが望まれます。
Q6 生後すぐに計画を!? 1歳までに行うワクチンのスケジュール
同時接種を前提とし、B型肝炎ワクチンとロタウイルスワクチンも接種に加えてスケジュールを立ててみました。
ただ、これはあくまでモデルケースで、この通りにしなければいけないものではありません。特にBCGワクチンは、地域によっては集団接種で行っており、日にちが指定されている場合があります。かかりつけの先生と相談し、無理のないワクチンスケジュールを立てましょう。
[1]1回目の接種(2カ月)ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、ロタウイルスワクチンの4種類から開始します。[2]2回目の接種(3カ月;1回目の接種から4週間後)ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチンの2回目に加え、DPTワクチン、IPVワクチン(11月からはDPT-IPVの4種混合ワクチンになります)の1回目を行います。[3]3回目の接種(2回目の接種の1週間後)BCGワクチン、ロタウイルスワクチンの2回目の接種を行います。[4]4回目の接種(3回目の接種の4週間後)ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンの3回目とDTPワクチン、IPVワクチンの2回目を行います。[5]5回目の接種(4回目の接種の4週間後)DTPワクチン、IPVワクチンの3回目を行います。[6]6回目の接種(1回目の接種の6カ月後)B型肝炎ワクチンの3回目を行います。(文/ナビタスクリニック川崎小児科・小児循環器 河野一樹)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121001-00000000-trendy-soci