がん患者の5年生存率が平均で50%を超え、「慢性疾患」として付き合う患者が増えてきた。医療の進歩に伴い、働きながらの治療も可能になってきているが、がん経験者の復職や就職は今も難しいのが現状だ。6月閣議決定された「がん対策推進基本計画」は初めて働く世代に焦点をあて、就労支援の充実などが盛り込まれた。今後、働きながらがんと向き合う社会づくりが求められている。
基本計画では、毎年20~64歳までの約22万人ががんに罹患(りかん)、約7万人ががんで死亡する一方、長期に生存し、社会で活躍する人も多いと指摘。だが、就労可能ながん患者や経験者でも復職や継続就労、新規就職が困難な場合があるとして、今後3年以内に課題を明らかにするとした。
民間企業としてがん患者の就労問題に取り組む「キャンサー・ソリューションズ」などが昨年12月に行った調査では、がんと診断された197人中、診断後に就労状況が変わった人は半数以上の104人。うち依願退職は30%。解雇が11%、希望していない異動が6%だった。
千人以上の会社では、がん罹患後に勤務先が変わった人は44%だったが、100人以下では59%。同社の桜井なおみ社長(45)は「中小企業では働いていない社員を雇っておく経済的、人的な余裕がなく、居づらい雰囲気ではないか」と指摘する。
◆時給制で正社員
だが、がん患者の治療と仕事の両立を支援する中小企業もある。
千葉県銚子市の食品卸売会社「櫻井謙二商店」の女性社員(45)は、3年前、乳がんと診断された。
「治療しながらの仕事は自分には無理と思った」と女性社員。退職も考えたが、櫻井公恵社長(44)から、正社員のまま時給制での勤務を提案された。収入は3分の2になったが、女性社員は「働いた分だけお金がもらえるので、休みが取りやすい」と話す。
同社の社員は約30人。がん患者はこの女性社員が初めてではない。櫻井社長の夫、雄二さんもがんを患い、平成22年に亡くなった。櫻井社長は「夫は亡くなる2週間前まで仕事をした。がん患者には治療を優先したい人もいれば働きたい人もいる。うちのような中小企業にとって社員は家族のような存在。がんに限らず、その人がどうしたいのか、その都度話し合っている」と話す。
◆夜10時まで診察
仕事に影響が出ないように配慮する病院もある。江戸川病院(東京都江戸川区)の放射線科は平日は午後10時まで外来を開いている。1日の外来患者60~70人のうち、夜間に通院する患者は約20人。浜幸寛放射線科部長は「自分も20代で脳腫瘍を患い、治療と仕事の両立に苦しんだ」と夜間外来の開設理由を話す。
北里大学の和田耕治講師(公衆衛生学)は「がん患者にとって仕事は治療費の確保だけでなく、生きがいでも重要。仕事と治療を両立できる仕組みを作っていく必要がある」と話した。
【用語解説】がん対策推進基本計画
国民の死因の1位であるがんの死亡率を減らすため、がん医療の課題と目標をまとめた国のがん対策の柱。平成19年施行のがん対策基本法に基づき、19~23年度の第1次計画が定められ、6月8日には改定された第2次計画が閣議決定された。2次計画では重点課題に「働く世代や小児へのがん対策の充実」を掲げたほか、喫煙率の数値目標を初めて盛り込んだ。
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