[ カテゴリー:医療, 社会 ]

<クローズアップ2012>6歳未満、初脳死判定 法改正2年、ようやく

2年前の改正臓器移植法全面施行によって道が開かれた、小児からの脳死臓器移植。昨年4月に10代前半の男子からの提供はあったものの、より小さな子どもへの移植につながる6歳未満からの提供はこれまでなかった。富山大病院で初の6歳未満の脳死判定が家族の承諾に基づいて実施され、臓器が提供されることになったが、小児の脳死判定の難しさや家族のケアなど、なお課題は多い。

◇心理的負担、なお高い壁

改正臓器移植法が10年7月に全面施行される以前は、国内で体に合うサイズの臓器が提供される可能性がない重い心臓病の乳幼児は渡航移植するしかなかった。ところが、渡航や手術には1億円前後の費用がかかる。さらに、08年には国際移植学会が渡航移植自粛を求める内容を盛り込んだイスタンブール宣言を採択するなどしたため、臓器移植法が改正され、国内でも小児の移植医療が可能になった。

15歳未満の臓器提供は可能になったものの実際に移植が実現したのはこれまでわずか1件。年齢が比較的高く、体が大きい小児が大人から移植を受けたケースもあるが、小児への臓器移植は現実的には依然としてハードルが高かった。

海外での移植などを支援しているNPO法人「日本移植支援協会」の永井孝理事は、今回の脳死判定に「日本でも小児からの臓器移植が広がる可能性が出た。既に法的には門が開いていたが、現実として子どもの脳死を受け入れる親はいなかった。理解のある親が現れたことの意味は大きい。海外に渡航する子どもが多かっただけに、日本にいたままでも助かる子が増えてほしい」と話した。

また、臓器移植患者団体連絡会の見目(けんもく)政隆幹事は「ご家族は大変な決断をされたと思う。周囲はご家族の希望通りにしてあげてほしい。6歳未満の初めての提供事例で、移植を待っていた子どもにとってはありがたい話だが、今は重い決断をした家族を温かく見守ってあげることが大切だ」と述べ、家族を気遣った。

改正法によって、本人が生前に拒否の意思表示をしていなければ、家族の承諾で脳死臓器提供が可能になり、改正前の年約10例から、年約40例に増えた。だが、従来の心停止後の提供が脳死提供に移っただけともされ、脳死提供への理解が広がっているかどうかは不明だ。

◇回復力考慮、割れる見解

法改正はなされたが、初の6歳未満の脳死判定までには約2年もかかった。横田裕行・日本医大教授(救急医学)は「成人に比べ臓器提供に至るまでの手順が難しい」ことを理由に挙げる。

脳死状態の患者が出た場合、院内の虐待防止委員会で、厳密に虐待の有無を判断する。横田教授によると、日本医大でも過去に脳死状態になった小児がいたが、外傷があったため同委員会で「虐待を排除できない」とされ提供に至らなかったという。NPO法人「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク」理事長の山田不二子医師は「今の制度では脳死判断する病院にすべての責任を負わせており、病院が慎重に慎重を重ねている」と指摘する。

小児の脳は傷害への抵抗力が強く、回復力が高いなど未解明の部分が多い。成人は脳死になってから数日で心臓が止まるとされるが、小児の場合は何年も心臓が動き続ける「長期脳死」の例があり、専門家の中でも基準の妥当性について意見が割れている。

長野赤十字病院は10年7月の改正法施行の際、生命倫理委員会で、6歳未満の脳死判定を実施しないことを独自に決めた。斎藤隆史副院長は「他の病院で判断したことにコメントする立場にはない」と前置きしながら、「脳死状態を経て亡くなった乳幼児の解剖所見はまだ少なく、(6歳未満の脳死の認定条件は)脳死を判断する基準としては不十分で、時期尚早と判断したからだ」と説明する。

今回のケースをきっかけに、6歳未満の小児の臓器提供が増えるのか。小児専門病院では、脳死とされる状態で死亡する小児が施設当たり年10人ほどいるとみられるが、横田教授は「臓器提供までのハードルが高く、急速には増えないだろう」と推測する。さらに、改正臓器移植法で乳幼児から臓器提供する場合、両親が判断することになる。成人の子どもに比べ、両親は若く、心理的な負担はより大きいと考えられる。

一部の医療機関では、家族が取り残されることのないように亡くなる家族を見送る環境を整える「みとり」の取り組みが始まっているが、従来の救急医療の現場において、救命が難しくなった後の患者や家族のケアは十分とはいえない。

昭和大の有賀徹病院長(救急医学)は「親が子どもの死を受け入れなければならず、悲しみは非常に深い。家族の負担を軽減するためにもメンタルケアの体制整備が必要だ」と指摘する。

兵庫県篠山市の小児科医院「すぎもとボーン・クリニーク」医師、杉本健郎(たてお)さん(63)は、15歳未満として初めての脳死臓器提供となった昨年4月の事例に触れ、「1例目の子どもの脳死移植が十分に検証されていないなかで、2例目が続くことに違和感を覚える」と話す。杉本さんは85年3月、6歳の長男が交通事故で脳死状態となり、心停止後に臓器の一部を提供した。当時の判断が正しかったか今も疑問を持っている。杉本さんは「悲嘆に暮れる親族が、コーディネーターに誘導されることもあり得る。両親が申し出たことなのか、情報公開と検証が必要だ」と話した。【鳥井真平、神保圭作、杉本修作】

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◇男児の脳死臓器提供までの流れ

7日  主治医が「重篤な脳障害」と家族に説明

家族が提供を申し出る

9日  家族が臓器提供に関する情報提供を希望

9~10日  県の移植コーディネーターが提供についての一般的な事柄を計70分間説明

脳死と判断されうる状態と診断

12日  家族が移植ネットのコーディネーターによる説明を希望

午後5時半、主治医が移植ネットに連絡

移植ネットと県のコーディネーターが、提供に伴う院内の態勢が整っていることを確認

コーディネーター2人が家族に1時間説明。家族・親族8人の総意で提供承諾

午後8時10分

両親が脳死判定と臓器摘出を承諾

13日 午後0時8分

1回目の脳死判定終了

14日 午後2時11分

2回目の脳死判定終了

(15日の予定)

午前8時半

臓器摘出チーム集合

正午

摘出手術開始

午後

摘出手術終了

http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20120615ddm003040086000c.html

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