焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件は、昨年4月末の発生から1年が経過した。肉の生食の危険性がクローズアップされたことから牛の生肉の規制は強化され、生レバーは6月にも提供が禁止される。一方で、「安全に食べられる方法をもっと探すべきだ」との声も根強く残る。食文化と安全性。両立はできないのか。
◆代用品は…
サラリーマンでにぎわう東京都台東区の焼き肉店「焼くべえ」。カルビなどの定番メニューに交じり「見た目も食感もレバ刺しそっくり! マンナンレバー」の文字が目を引く。レバ刺し自粛以降、似た味でいいから食べたいという客の声に応え、「レバ刺し風こんにゃく」を提供してきた。
赤く着色したこんにゃくにしょうゆベースのタレで味をつけてある。ネギやゴマを散らし、ゴマ油をからめて食べると本物に近い味がする。加藤達也店長は「売り上げはレバ刺しに及ばないけど評判は上々」。開発した「ハイスキー食品工業」(香川県)によると、焼き肉店などから注文が殺到し、初年度5千万円の売り上げ目標は半年で達成。菱谷竜二社長は「レバ刺しが好きな人がこんなに多いとは」と反響に驚く。
◆生食状況把握も…
日本人はいつから牛の生肉や生レバーを食べるようになったのか。焼き肉などの食文化に詳しい滋賀県立大の鄭大聲(チョン・デソン)名誉教授は「戦後、在日韓国・朝鮮人が家庭で食べていたものを焼き肉店で出すようになり広まったのではないか」という。
日本ではもともと、馬や鶏の生肉を食べる習慣が一部であった。鄭名誉教授は「刺し身を食べる習慣があったこともあり、なじんだのだろう」と分析する。
厚生労働省もこうした食文化の状況を把握しており、牛肉の生食による食中毒を防止するための「衛生基準」を以前から設けてきた。だが罰則はなく、基準を満たさない牛肉がユッケなどに広く使われている実態が事件をきっかけに表面化。一歩進んだ対策を取らざるを得なくなった。
◆ほかの“生”は…
「これまで何十年も普通に食べてきたものを突然、全面的に禁止するのは唐突だ」。全国食肉事業協同組合連合会の小林喜一専務理事は「生で食べるものはすべてリスクがある。生ガキ、生卵まで規制するのか」と行政に疑問を投げかける。
厚労省によると、牛生レバーが原因の食中毒は昨年1年間で12件。一方で生ガキは27件、生卵も1件発生している。生ガキによる死者はいないが、生卵では70代の女性1人が死亡した。
食中毒に詳しい東京医科大の中村明子兼任教授は「生肉は刺し身感覚で食べるものではない」とする一方、全面禁止については「行政はもっと丁寧に、安全に食べるための環境をつくれないか検討すべきだ」と話す。
厚労省は、牛の生レバーについて「安全に食べられる汚染除去方法などが見つかれば再度議論を行う」と再開の余地を残している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/medical/snk20120429063.html
生レバーを食することを禁止することは、日本の食文化を否定することに発展しかねない。レバーに続いて、次は生カキ、鶏肉、鶏卵などと進化して(?)行くのではないかと心配をする。
本来、世の中に100%安全ということはないのであって、人類誰しもが集団で生活していれば、必ず身の危険を感ずるような危険に遭遇する。 そういうリスクから身を守るために、その責任を行政や他人に負いかぶせるようなことは、集団生活を否定することに繋がるし、何よりも行政のコストを膨らませることに繋がる。 身の安全を行政や他人に委ねる前に、自分の身は自分で守る、という生活態度こそ必要なことではなかろうか。安全に対して極論がまかり通ることに危惧を感ずる。
塩谷栗夫
2012年6月8日 4:05 PM