一般用医薬品のインターネット販売を認めた26日の東京高裁判決。逆転勝訴したネット薬局側は「ほっとした」と笑顔を見せ、厚生労働省は「非常に厳しい判決」と重苦しい雰囲気に包まれた。
原告のネット薬局「ケンコーコム」は、風邪薬や胃腸薬などが販売できなくなったことで年間5億円ほど売り上げが減ったという。省内で会見した後藤玄利(げんり)社長は「一刻も早く規制が解消されることを願う」と上告断念を求め「今後は最新技術を取り入れると共に、顧客とのコミュニケーションを重視していきたい」と強調した。
同じく原告「ウェルネット」の尾藤昌道社長は「感無量。判決は筋が通っている。今まで以上にネットで薬品の情報提供に努める」と話した。
日本チェーンドラッグストア協会が今月、「一定条件で通販を限定的に許容すべきだ」とする有識者らの報告書をまとめるなど、ネット販売解禁の流れは強まりつつある。「包囲網」が狭まる中で敗訴した厚労省。しかも、ネット販売を規制する省令について、判決は「一律禁止することを省令に委任したとは認められない」と一蹴した。同省の担当者は「規制緩和を促すどころか規制そのものを否定する内容だ」と声を落とした。
◇情報不足、懸念の声も
一般用医薬品のネット販売を認める東京高裁の判決を受け、ネット通販業界では、規制緩和が進んで薬品販売が増えるとの期待が高まった。しかし、情報不足のまま購入すれば副作用を招くとの懸念も強く、厚生労働省は慎重に対応する方針だ。
ネット通販を手掛けるヤフージャパンは「消費者の選択肢が広がる」と評価する。同社や楽天などの事業者は、厚労省に規制緩和を求める意見書を出すなどの取り組みを続けてきただけに、「判決が追い風になる」(別の業者)と歓迎する。
日本では現在、ビタミン剤など副作用の心配が極めて小さいものしかネット販売できないが、風邪薬などの販売が解禁されれば、薬局が少ない地域の住民らのメリットは大きい。米国など一般用医薬品のネット販売に規制を設けていない国もあり、政府の行政刷新会議は昨年3月、「通販より対面が安全性が高いとする根拠はない」と指摘。同年7月には、安全性の確保を条件に規制緩和する方針が閣議決定された。
しかし、購入者の投薬履歴の管理など、副作用を防ぐ対策の議論は進んでいない。薬害被害者団体などは、規制緩和で薬害を招かないか心配しており、厚労省は拙速な緩和に反対している。市民団体「医療情報の公開・開示を求める市民の会」の世話人、勝村久司さんは「薬は医療の一部。本来は医師や薬剤師らがきちんと患者と対面しながら、必要な量だけ処方すべきものだ。利便性が安全性を上回ってはならない」と話している。
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