【東京】この四半世紀で世界最悪となった原発事故から1年余りが経った日本では怪しげな放射線検知器や被ばく緩和剤などが出回っている。
今年1月、日本保育協会福島県支部は毛髪の電磁気量を計る装置で内部被ばく量が測定できるとする業者、日本QRS健康管理協会について、詐欺の疑いがあるとして注意を促す通知を県内の保育園に出した。これにより東京都福祉保健局が調査を開始した。
昨年7月には東京都が汗と一緒に放射線を除去するという触れ込みのスーツは疑わしいとして、この業者を指導した。また国民生活センターには、風呂の中で使用すれば放射性物質を吸着するという1台約50万円の温浴器に関する相談も寄せられている。昨年3月の大震災で被災した福島第1原発から南へ約40キロのいわき市では、緊急対策本部に放射線物質対策用の商品に関する販促資料が雨のように届いたという。
人々の放射性物質に対する懸念につけこんで利益を得えている業者がいるようだ。事故のあった原発付近では特にだ。牛肉やコメ、肥料やコンクリートに至るまで放射性物質による通常以上の汚染が検出され、懸念を抱えた住民たちは体の中にどのくらいの量が蓄積されているのか、またその結果どうなるのか知りたいとの気持ちが強くなった。しかし国民の放射線懸念に対する政府の動きは鈍く、人々は自分たちで答えを急ぎ求めようとしてきた。
放射能の専門家はこれらの対放射性物質商品はまったくの作り物だと指摘する。「いかさまとも言える」と、コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院の研究者、ノーマン・クレイマン氏はひと束の毛髪で内部被ばく量が測定できるという装置について言及した際、こう表現した。
しかし放射性物質やその影響についてほとんど知らない、多くの不安を抱える消費者にとっては、商品の幅広さは混乱の元であるうえ、その根拠となる科学も不明瞭だ。なかでも最も不安を感じているのは、放射性物質の影響を受けやすいとされる小さな子どもを抱えた親たちだ。
「結局、(影響が出てくるのは)30年、50年の話ですから。お母さん方が非常に気にしている事なんですよね」と、いわき市の保育園園長は述べた。この保育園はQRS健康管理協会の装置を使ったデモンストレーションに場所を提供した。同園長によると、人口33万人を擁するいわき市には、たった1つの全身測定器――内部被ばくを測定する公式な装置――しかないという。
QRS健康管理協会は昨年11月、ペットフード会社の代表理事、白田博氏によって設立された。白田氏はQRS(量子共鳴分析器)を犬や猫の健康状態をチェックするために何年も使用してきたという。白田氏によると、この技術は米サンフランシスコの医師、アルバート・エイブラムス氏が開発したものだという。エイブラムス氏は数滴の血や手書きの文書など、対象は何であれ電流を流せば病気が診断できるとうたった装置を作り、1800年代~1900年代初頭にかけて名をはせた人物だ。エイブラムス氏の装置は結局、米国医師会によって有効性が否定された。
白田氏は生理科学研究所(東京・品川)と契約し、同研究所がQRS検査を1人当たり8400円で請け負ってきた。この装置を使えば、ヨウ素やセシウム、ストロンチウムなど8種類の放射性物質を検知できるという。また白田氏とは直接関係ないが、「QRS普及委員会」と呼ばれる別の団体が昨年6月に設立され、「髪の毛20本で放射能検査ができる」とうたっていた。
また東京の医院でQRS検査を行っている中村元信医師は検査の仕方を示して見せた。装置の上に乗せた名刺から発散される有害物質などを計測するという。結果は、異常なしだった。
数値は――放射性物質を含め――マイナス20からプラス20までの値で出る。一般に使われているベクレルやシーベルトではない。中村氏は詐欺だとする非難を一蹴、福島第1原発の労働者を対象に放射性物質の被ばく量を正しく計測するためQRS装置を使ったとしている。「科学で説明できないものですから」と同氏は述べた。
白田氏は福島県のいくつかの保育園や幼稚園で、約260人の親子には無料で、また約130人は1人8400円程度でQRS検査を行ってきた。昨年末には都議会議員が主催するデモンストレーションで、約50人の親に同検査を見せたという。そして1月、日本保育協会福島県支部は警告を発した。
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