◇体動かさず心身機能低下
体を動かさなくなることで心身機能が低下する「生活不活発病」が、東日本大震災の被災者に目立っている。「することがない」などの理由で体を動かさなくなることで、体や心のありようが弱ってしまうことがあるという。ただ、被災地に限った症状ではないといい、専門家は「予防が大事。もし症状が出ても早期発見すれば、早めに改善させることができる」と指摘する。
◇役割喪失などで
宮城県南三陸町の女性(83)は昨年3月の震災前、息子ら家族と暮らし、家事のほか、日中は畑に出て農作業をしていた。
しかし、震災で自宅が被災。約70キロ離れた温泉旅館の避難所に身を寄せた。することがなく何もしない生活。避難所暮らしで疲れやすいこともあり横になることが多くなった。生活不活発病の症状だ。
8月。町内の仮設住宅に入居したものの、外出は少ないまま。「やりがいのある生活ができれば」と息子が女性と買い物に出かけ、かまと砥石(といし)を購入。翌日から女性は仮設住宅周辺の草刈りを少しずつするようになり、コスモスの種を植えるなどした。すると、徐々に疲れやすいなどの症状がなくなり、9月には震災前の状態に回復。今は雪かきもこなしているという。
生活不活発病は、体を動かさなくなることで、筋力や心肺・消化器機能が低下するほか、うつ状態や歩けなくなって寝たきりになるケースもある。高齢者や持病のある人がなりやすく、学術的には「廃用症候群」と呼ばれている。
04年の新潟県中越地震で、災害時に起きやすいと確認された。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の大川弥生・生活機能賦活研究部長によると、介護を受けていない65歳以上の高齢者の約3割に歩行困難が表れ、そのうち約3分の1の人が6カ月たっても回復していなかった。避難所や仮設住宅にいた高齢者だけでなく、自宅で生活していた人にも症状が表れていた。
大川さんは、体を動かさなくなる原因として(1)することがなくなる(2)遠慮(3)環境の変化――の3点を挙げる。
(1)は家事や庭いじりなど自宅での役割がなくなったり、地域付き合いや行事がなくなったケース。(2)は家族やボランティアから「自分たちでやります」と言われたり「周りの迷惑になる」と考え、動かなくなるケース。(3)は道が危なくて歩けなかったり、仮設住宅などでつかまるものがなく立ち上がりにくいケースが考えられるという。
動きにくくなることで、さらに外出などがおっくうになり、ますます動かなくなる。悪循環で、生活不活発病がさらに進んでしまう。
◇活動的な生活を
一方で、被災地に限った問題ではないと大川さんはいう。「『病気のせい』『年のせい』と思っていたことが、実は単に動かなくなっていたためではないか振り返ってほしい」と指摘。「毎日の生活で役割や楽しみを持って動くようにすることが第一。気分転換を兼ねた散歩やスポーツもいい。活発な生活ができるよう家族や周囲の人も配慮してサポートしてほしい」と助言する。
「生活不活発病かな」と感じた場合はどうすればいいのか。大川さんは「日常生活を振り返り、どうして動くことが減ったのかを考え、生活の中で動く機会を増やしていってほしい」と話す。
◇震災後に歩行困難…仮設住宅の高齢者の3割超
宮城県南三陸町と大川さんは東日本大震災後から、全町民の生活能力がどう変化したかを調べている。
65歳以上の高齢者を対象に震災後に歩きづらい症状になった人が、7カ月たって回復しているかどうか調査を実施。昨年11月時点で回収率8割以上の地区のデータを集計した。
その結果、介護を受けていない高齢者の21・2%(2702人中572人)、要介護者の33・9%(384人中130人)が歩きづらくなったまま、その後も回復していなかった。
住んでいる場所で分けると、町内の仮設住宅では介護を受けていない高齢者の30・4%(595人中181人)、要介護者の48・8%(84人中41人)が回復していなかった。
津波の被害がなく自宅などで生活している場合でも、介護を受けていない人でその後も回復しなかった高齢者は13・5%(792人中107人)。町外の親戚宅や借り上げアパートなどに移り住んだ要介護者は34・4%(32人中11人)が回復していなかった。
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◇生活不活発病チェック
(以下の項目のうち、以前はしていたが現在できなくなりつつあるものがあれば注意)
□屋外でも遠くへも1人で歩いていた
□自宅で壁や家具などを伝わらず歩いていた
□食事や入浴など身の回りの行為を外出時にも不自由なくできた
□週3回以上外出していた
□日中は家の外でもよく動いていた
※リストの詳細はhttp://www.ncgg.go.jp/pdf/topics/zaitakutirashi110324.pdf
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■震災で歩行困難になり7カ月後も回復しなかった宮城県南三陸町の高齢者の割合(単位・%)
介護不要 要介護
◇仮設住宅
町内 30.4 48.8
町外 29.0 41.2
◇一般住宅
津波の被災地域 18.8 30.1
津波被害のない地域 13.5 23.1
町外 24.2 34.4
全体 21.2 33.9
(南三陸町と大川さん調べ)
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/medical/20120226ddm013100011000c.html