猛威を振るうインフルエンザは、いまだ収束に向かっていない。国立感染症研究所の最新のデータ(6~12日)によると、学級・学年閉鎖や休校した保育所、幼稚園、小・中・高校などは全国で8090施設。患者の半数以上を子どもが占め、教育現場では感染の拡大防止に必死だ。一方、国も児童らの出席停止基準を見直す。インフルエンザ対策の現状を探った。【丹野恒一、榊真理子】
「まだ3日しか休んでないのに、大丈夫かしら」――。東京都町田市立忠生小(児童712人)の主任養護教諭、新井典恵さんはある朝、登校してきた児童の中にインフルエンザで出席停止だった子を見つけ不安になった。各地の小学校などで、インフルエンザにかかっても3日程度しか欠席せず早期に登校する子が増えている。
学校保健安全法施行規則では78年以降、インフルエンザにかかった子の出席停止期間について、「解熱した後2日を経過するまで」を基準とした。この基準ができた当時、熱が下がるまで5日ほどかかったため、そこから2日休み、計1週間程度欠席するのが目安だった。
しかし、最近ではインフルエンザの治療薬が普及し、解熱までの時間が大幅に短くなった。治療薬の効き目はその年のウイルスの型などで多少異なるが、日本臨床内科医会の昨シーズンの調査では、A型インフルエンザの場合は平均約20~29時間、B型では平均約36~40時間。つまり発症後すぐに投薬を受ければ、3日程度の欠席で済むケースも出てくる。
医療現場からは、こうした状況に対し、「解熱してもウイルスの排せつは続き、感染力が残っている」との指摘は少なくなく、「感染力があるのに登校する子が増えれば、感染拡大につながりかねない」との声も上がっていた。
働く母親が増えていることも、感染した子が早期に登校する傾向に拍車をかけているようだ。足立区で小児科医院を開業する和田紀之医師(都医師会公衆衛生委員会委員長)は「母親から『どうしても仕事を休めないから早く子どもを登校、登園させたい』としばしば懇願される。特に5歳未満は重症化して脳症になる恐れも強く、『他の子に感染して、もしものことがあってはならない』と理解を求めている」と話す。
こうした現状を問題視し、文部科学省は16日、34年ぶりに出席停止期間の基準を見直す方針を決めた。4月から「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」と改める予定だ。また、低年齢ほどウイルスの排せつが長く続くため、幼稚園児は09年に厚生労働省が保育所・園を対象に定めたガイドラインに合わせて「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後3日を経過するまで」とする。
発症した日や熱が下がった日は1日目と数えるのか、従来「分かりにくい」と指摘されてきたが、文科省学校健康教育課は「翌日が1日目となる。これまで明文化されていなかったが、作成中の感染症対策マニュアルにはっきり書き、今年度中に示したい」とする。
◇換気、湿度チェック…現場の工夫いろいろ
教育現場では現在、どんな対策が打たれているのか。町田市立忠生小は21日正午現在、インフルエンザと診断されている児童が25人いるが、学級閉鎖はゼロ。周囲の学校で学級閉鎖が相次ぐなか、感染拡大を抑えている。
同小の校内には至る所にオリジナルのキャッチフレーズを記した紙「うってかえすインフルエンザ」が張られている。うがい▽手洗い▽換気▽栄養▽睡眠――の頭文字から取ったもので、子どもたちに日常的な予防法をわかりやすく伝えている。
この他、学校ぐるみでさまざまな取り組みを実施している。インフルエンザは湿度30%以下になると流行しやすくなるといわれる。窓を閉めきって暖房すると湿度が下がるため、全教室に湿度計を置き、毎日担任教諭がチェックして50%程度の維持を目指す。また、空気中に飛散したウイルスを除去するため、空気の入れ換えも重要だ。そこで昼休みなど長い休み時間には保健委員の子どもが各教室を回って窓開けができているか確認。手洗いを促すため、ハンカチを一人も忘れなかったクラスを表彰したり、子どもの手を蛍光剤で染めて洗い残しを調べる実験をし、手洗いの意識を高める工夫もしている。
新井教諭は「特に今年は換気を重視しているが、基本的な対策について、なぜ必要なのかを子どもに納得させるよう努めている。まだインフルエンザの流行は収まっておらず、できる対策を徹底し、手を抜かないことが大切」と話している。
◇薬…年齢、生活で選んで
インフルエンザの治療薬は昨シーズンに吸入式の「イナビル」が発売され、現在「タミフル」「リレンザ」「ラピアクタ」と合わせ計4種類が使われている。日本臨床内科医会が研究グループ内での昨シーズンの使用状況を調べたところ、0~4歳は94%がタミフルなのに対し、5~9歳はタミフル56%、イナビル21%、リレンザ19%。10~19歳は服用時の異常行動の問題でタミフルはなく、リレンザ59%、イナビル35%だった。
和田紀之医師は「イナビルは1回で済む点が好まれるが、吸入を失敗すると治りが悪くなるので、特に年少の患者は十分に指導することが重要だ。治療薬は年齢や生活スタイルに合わせて選ぶとよい」と話す。
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■町田市立忠生小の対策
・児童が校内を巡回し窓開けをチェック
・全教室に温度計、湿度計を設置
・霧吹き、ぬれタオルなどを置き乾燥防止
・蛍光剤を使った実験で手の洗い残しを実感させる
・ハンカチ忘れがなかったクラスを表彰
・流行の兆しがあれば、クラス全員の検温を実施
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■インフルエンザ治療薬4種
・タミフル…1日2回、5日間の内服
・リレンザ…1日2回、5日間の吸入式
・ラピアクタ…通常は1回だけの点滴
・イナビル…1回だけの吸入式
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/medical/20120222ddm013040152000c.html