◇「見えないつらさ」理解求め
「自分の内臓がガラス張りだったら、どんなによかったか」。先天性の心臓病で子供の頃から5回の手術を受け、今も月に1度は東京都内の病院に通う白井伸夜(のぶよ)さん(42)=埼玉県鴻巣市=は、電車の優先席に腰掛けながら周囲の視線を感じて顔を上げられなかったことがある。血管に血液を送り出す左右の心室を隔てる壁に、ピンポン球ほどの穴が開いて生まれた。心臓には人工血管が2本と、ステントと呼ばれる金属製の筒が入っている。血行が悪いため他の臓器にも負担がかかり、疲れやすい。自宅から1時間以上かかる電車では、とても立っていられない。
◇配慮受けやすく
普及している障害者のシンボルマークが車いす型のため、障害は外見で判別できると思われがちだ。しかし、内臓疾患など外見からは分からない「見えない障害」を抱える人たちもいる。
厚生労働省の最新の統計(06年)によると、身体障害者福祉法に基づく身体障害者手帳の交付対象者のうち、3割にあたる約107万人は白井さんのような内部障害者だ。ラッシュ時の地下鉄車両に約300人が乗っているとすれば、2~3人は痛みやだるさを抱えているかもしれない計算になる。
こうした内部障害を、バッジやマークを作って「見える」ようにする活動が広がっている。白井さんは電車に乗るときに、04年4月に内部障害者らで作った「ハート・プラス」マークを身につけている。公共交通機関や自治体庁舎の駐車場など全国120カ所以上で、車いすやマタニティーのマークと並べるなどして掲げられている。白井さんは「身体障害者手帳の交付と一緒にマークを配布するなど、国にもっと協力してもらいたい」と訴える。
障害者手帳の交付を受けられないがん患者や、精神疾患などの「見えない障害」を抱える人のためのマークもある。がん患者らを支援する「HOPE★プロジェクト」は06年、「知ってほしい」マークを作成した。理事長の桜井なおみさん(44)は、地下鉄の車内で立っていたところ、かばんに付けたマークに気付いた白髪の女性に席を譲られたことがある。その気遣いがうれしく、女性にマークの意味や患った乳がんの経験を語った。
働き盛りの世代で突然がんを発症すると、社会からの疎外感が大きい。桜井さんの仲間の中には、治療費を稼ぐために仕事を続け、ラッシュを避けられず満員電車に揺られるがん患者もいる。「『障害者』とも『がん患者』とも名乗れず、痛みを抱えた人がいることを想像してもらえれば」と呼びかける。
◇自治体も働きかけ
兵庫県も昨年7月、難病患者や内部障害者を対象に「譲りあい感謝マーク」を制定した。公共交通機関のほか、スーパーマーケットの駐車場などに掲示するよう働きかけている。
当事者側からのこうした情報発信について、山梨学院大の竹端寛(たけばたひろし)准教授(障害者福祉論)は「例えば一般の人が電車でマークをつけた人を見ても席を譲れなかった時は、『どうして譲れなかったのか』と問い直す。自分でも見えなかった疲れや過労に気付けるかもしれない。それを意識することで、一人一人が障害者の位置づけをとらえ直すきっかけになればいい」と話している。
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■主な「内部障害マーク」
▽「ハート・プラス」マーク
ハート・プラスの会のホームページ(http://www.normanet.ne.jp/~h-plus)で図柄をダウンロードできる。事務局住所は〒464-0082名古屋市千種区上野1の3の9。
▽「知ってほしいキャンペーン」マーク
マーク入りキーホルダーは5個セットで1500円。HOPE★プロジェクト(http://www.kibou.jp)にEメール(info@kibou.jp)で申し込む。
▽「譲りあい感謝マーク」
兵庫県民に限らず利用可能。ピンバッジは1個200円。兵庫県健康福祉部障害福祉局障害者支援課。住所〒650-8567神戸市中央区下山手通5の10の1、電話078・362・4379。
▽「見えない障害バッジ」
ウェブサイト「わたしのフクシ。」(http://watashinofukushi.com)参照。現在は受け付け停止中だが再開予定。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/bizskills/healthcare/20120108ddm013100010000c.html