「ドイツ国内はパニックです。スペイン産キュウリ、ドイツ産モヤシと次々に疑わしい野菜が農業相から発表されたが、断定できていない。いまは中国産アズキが疑われている最中です。こうも感染源と疑われる食べ物の名が挙がると、ほかの野菜、さらにはチーズ、ミルク、肉なども食べて大丈夫なのかと不安です」(ドイツ在住のカメラマン・木場健蔵氏)
腸管出血性大腸菌O(オー)104による感染症が猛威をふるっている。5月中旬にドイツで発生。その後、オーストリア、デンマーク、フランスなど13ヵ国に感染が広がり、死者22人、患者数は2千人を超えた(6月8日現在)。
O104が怖いのはHUS(溶血性尿毒症症候群)を引き起こすこと。ベロ毒素、シガ毒素といった強い毒素を発生させ、激しい腹痛、下痢、血便、欠尿、無尿などを発症し、場合によっては死に至る。たとえ助かったとしても腎臓にダメージが残り、長い間、透析治療をしないといけない体になってしまう危険性もある。
今回の感染症を取材するノンフィクションライターの西島博之氏が説明する。
「O104が初めて発見されたのは1994年。米モンタナ州で牛乳による集団食中毒が起きたときです。感染者は18人。ただし、そのときのHUSの発症者はゼロ。今回のケースでは感染者の実に3分の1がHUSになっているので、同じO104といっても別物といってもよいでしょう。感染者の3分の2が 18歳以上の女性というのも、今回の特徴です。なぜ、このような偏りが生まれたのか、原因はまだ究明されていません」
ドイツ人女性を妻に持つ前出の木場氏が心配する。
「サラダは70℃以上のお湯で処理すれば大丈夫と、ドイツ政府は言っています。なのに、妻はサラダを一切口にしなくなりました。そしてこまめに手を洗っています。それも食器用洗剤で。口にする野菜はもともと自宅で保存していたジャガイモとタマネギくらい。食卓に上るのは缶詰、ビン詰などの保存食ばかりです。私も過敏になって、知人との握手がすっかり怖くなってしまいました。別れる際にも手を振るだけです」
中国の公的機関である北京ゲノム研究所がこのO104を解析したところ、ストレプトマイシン系など抗生物質に強い耐性を示すことがわかったという。薬が効きにくく、しぶとい大腸菌なのだ。
腸管出血性大腸菌は牛などの家畜や人の大便から検出される。そのため、家畜の肉処理や野菜の水洗い時にきちんと消毒しないと、あっという間に食物を通じて感染が広がる。事実、今回もドイツで発生した直後、西ヨーロッパはもちろん、ドーバー海峡を越えてイギリス、さらには大西洋を越えてアメリカにまで感染が拡大した。
この感染力にビビったのか、ロシア、サウジアラビア、カタール、レバノンなどはEU産野菜の禁輸に踏み切ったほどだ。
となると心配なのは、日本でもO104による感染が発生しないかということ。何しろ、欧州からの生鮮食品の輸入は年間約1万4千件(農水省調べ)。おまけに、1996年に大阪府堺市で3人が死亡したO157感染、さらには今年、富山県、福井県の焼き肉店で4人の死者を出したO111感染という前例もある。同じ大腸菌だけに、日本でO104が暴れないという保証はない。
新潟大学大学院の山本達男教授(細菌学)が警告する。
「モノやヒトが行き来するグローバルな世界では、感染症にも国境はありません。O157のときも政府や学者が『あれはアメリカの病気。日本には関係ない』とタカをくくっているうちに感染が広がってしまいました。日本は世界から食品を輸入していて、EUとの交流も盛ん。ヨーロッパの感染騒動は決して対岸の火事ではない。いつ日本でO104が猛威をふるってもおかしくありません」
この夏、手洗い、うがいは必須。さらにサラダも75℃以上で1分間以上加熱した野菜だけにしなきゃいけないのか?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110618-00000301-playboyz-soci