インフルエンザ流行のピークを前に予防接種が本格化している。今季はインフルエンザワクチンに含まれるウイルスの型が増え、ワクチン代が値上がり。各自治体は重症化しやすい高齢者らを対象に接種費の助成を行っているが、財源に限りがあるなどの理由で個人負担額の格差が広がっている。助成の負担増に悩む自治体からは「国も含めた制度の見直しが必要」との声も上がり始めた。(遠藤信葉)
■高齢者は「負担ゼロ」も
「町外のかかりつけ病院では3000円かかるが、ここなら無料なのでありがたい」。11月20日、インフルエンザの予防接種のため、福岡県上毛こうげ町の野中内科クリニックを訪れた町内の女性(82)は、こう語った。大分県中津市との境に住む女性は普段、自宅に近い中津市の病院に通っているが、予防接種は毎年、上毛町内で受けている。
2005年から65歳以上に、予防接種費用の全額を助成している上毛町。町子ども未来課の垂水英治課長は「インフルエンザは高齢者の死亡率が高い。町民の命を守るため、全員が受けられるよう個人負担をゼロにしている」と説明する。
町で昨年度、予防接種を受けた高齢者は1615人。接種率は国の平均より約10ポイント高い62・8%だった。垂水課長は「町内でインフルエンザが蔓延まんえんした記憶はほとんどない」と話す。
■各自治体の裁量
高齢者のインフルエンザ予防接種は、01年から予防接種法に基づく定期接種の対象になった。しかし、予防接種は保険がきかない自由診療のため、接種費は医療機関によって異なり、一般的には2000円台~5000円台。費用の約3割に地方交付税が充てられるが、それ以上の助成の有無や額は自治体の裁量に委ねられている。
宮崎県五ヶ瀬ごかせ町では1人あたり1600円を助成しているが、窓口での個人負担額は2400~2778円になる。担当者は「町の予算規模や、子供を対象にした助成とのバランスを考えると、高齢者を対象に、町がこれ以上負担することは難しい」と話す。
■ワクチン値上がりの影響
今季はワクチン価格が上昇し、さらに格差が拡大する傾向にある。北九州市や熊本市、鹿児島市などは、昨季1000円だった個人負担額を1500円に引き上げた。一方、昨季と同様、大分県別府市は1000円、佐賀県多久市は1200円に据え置いた。
各県医師会のまとめなどによると、九州での個人負担額は0~3000円と大きな開きがある。個人負担額が小さいのは福岡県の上毛町や川崎町(0円)、佐賀県の玄海町や基山町(500円)など。大きいのは熊本県宇城市(最大で3000円)などだ。
上毛町では、今年度の当初予算で1人あたりの助成額を3000円とし、1900人分の570万円を計上した。その後、ワクチン値上がりが判明したが、昨年度の接種人数から、助成を500円上乗せしても予算内に収まると判断。地元医師会と交渉し、個人負担ゼロの方針を変えずに対応した。
しかし、こうした手厚い助成も、いつまで続けられるかは不透明だ。上毛町の垂水課長は「いずれ高齢化が進み、税収が更に減少する時期がくる。その時まで今の助成を維持できるかどうか」と不安を漏らす。
厚生労働省の担当者は「限りある交付税の中で、財源措置はすでに行っている。予防接種はあくまで自治体の所管事業なので、自治体の判断に任せるしかない」と説明している。
子供は2回推奨、大半が自費
インフルエンザはもともと予防接種法の対象だったが、接種効果を疑問視する指摘があり、1994年に対象から外れた。その後、高齢者の集団感染や死亡が相次いだことなどから01年、65歳以上を対象に同法で定める「定期接種」の対象となった。しかし高齢者以外は原則、定期接種の対象になっていない。
高齢者と同じように抵抗力が弱く、集団感染を起こしやすい子供のワクチン接種については、一部の自治体が独自に助成を行っているものの、多くの自治体では全額自費で接種しなければならない。生後半年から13歳未満の子供は、2回の接種が推奨されているため、家計への負担は少なくない。
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インフルエンザワクチン 国立感染症研究所で開かれる検討会で毎年、流行が予想されるウイルスの種類を選定し、厚生労働省が決定、国内4メーカーが製造する。ウイルスを鶏卵で増殖させて作る。従来はA型2種類とB型1種類の「3価ワクチン」だったが、今季からB型を2種類含む「4価ワクチン」になり、製造コストが増えた。
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