男性に多いといわれていたアスペルガー症候群。だが、最近、女性にも少なくないことがわかってきた。患者たちは、時に男性より広く、深い、複雑な悩みを抱えている。
「なんか、お化けみたいな、未確認物体みたいなものに対する恐怖なのかなあ」
対人関係が苦手だという女性(23)は、自身の感覚をこんなふうに表現した。
ある国立大学の大学院修士課程で、ゲームの人工知能を研究している。笑顔が印象的で、一見、普通の女の子。だが、話し方は少し幼く、取材中は、記者と目を合わせることがほとんどなかった。
「怖いから、あまり(目を)合わせたくないなぁ、という……」
母親(54)によれば、この女性の場合は言葉を話し始めるのが遅く、2歳くらいまでは指さしで「これ」としか言わなかった。3歳のころは多動気味。言葉をしゃべるようになると、同じことを何度も何度も聞いてきた。小学生時代には、今で言う「KY(空気が読めない)」だとされていじめが始まり、「汚い」などと無視された。小学6年生の時、見かねた母親が専門医に連れていき、「アスペルガー症候群(AS)」と診断された。
ASは発達障害の一つで、生まれながらの脳の機能障害が原因とされる。これまでは、主に男性に起こり、男女比率は9対1だとされてきた。
だが、「どんぐり発達クリニック」(東京都)の宮尾益知院長によれば、同クリニックでは男性2、女性1の割合で、女性のASも少なくないという。長年にわたり発達障害の患者の診察を続け、3月に『女性のアスペルガー症候群』(講談社)を出した宮尾医師はこう話す。
「女性の場合、男性よりは社会性が育ちやすく、集団の中でそれなりに活動できることが多いため、周囲に気づかれにくかったことが原因とみられる。結果として、一人で悩みを抱えてしまう傾向があります」
AS患者は友だち付き合いや集団生活が苦手なため、対人関係の構築や意思疎通などに悩むことが多い。それが女性の場合は、男性よりも広く、深く、複雑であることが多いという。
女性のASの際立った特徴として大きいのは、中学から高校の思春期におけるガールズトークについていけないことだと宮尾医師は言う。
「アスペルガー症候群の人は、自分の趣味ややり方にこだわる一方、人の話に興味がもてない傾向がある。それが、女性の患者では『おしゃべりスキルの低さ』となって表れます。女性は他愛のないガールズトークによって人間関係を築いているところがありますよね」
やがて、友だち付き合いそのものがうまくいかなくなり、いじめや無視につながる。本人は、周りが自分に対しネガティブメッセージを出していることに気づいて「変だな」と感じても、なぜそのメッセージが発信されているのかを理解できない。
暗黙の了解や、相手の怒りを読み取るといった、非言語的なコミュニケーションが苦手だからだ。
※AERA 2015年11月30日号より抜粋
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151127-00000006-sasahi-hlth