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妊婦受け入れ拒否に見る日本の政治

笠井です。
先月の市政勉強会は講師に米山隆一氏を迎えて表題の件について行った。

昨年、東京都内で脳内出血を起こした妊婦(36)が7病院から受け入れを拒否されて死亡した問題があった。
最初に行った病院は墨東病院で、そこで拒否された後、6病院に問い合わせるもすべて拒否され、一時間後に同じ墨東病院が受け入れたが、結局、新生児は助かったが、母親は死亡した。

妊婦は出産時にいきむので、くも膜下出血を併発することはそれほど珍しいことではないらしい。
現代の医学は発達しているので、もしもそうなったとしても、相当な確率で命を救うことができるらしい。
たとえば、帝王切開しながら、くも膜下出血の処置としてのカテーテル治療を同時に行うなど…。
しかしながら、それはもちろんすぐに高度医療を受けられればの話で、この妊婦のように7病院にたらい回しにされたのではひとたまりもない。

いったいどうして?なぜ?「受け入れ拒否」

真相は…受け入れ拒否したくて、したのではなく、当直の医師が研修医一人しかいなかったので受け入れできなかった、というところらしい。

遡ること数年前、この病院の話ではないが、妊婦を出血多量で死亡させたとして、医師が逮捕される事件があった。(結局、昨年「無罪」となったが)
この時の妊婦は前置胎盤で、お産の瞬間に胎盤がはがれて大量出血し、出血多量で死亡したということだったらしい。

この事件以来、お上から「医師は一人ではダメ、二人用意しなさい」というお達しが出され、一方、臨床の現場では「難しいことはやるものではない」と、診察回避、委縮診療の方向へ進んだと言われている。

では、墨東病院ではなぜ当直医が一人しかいなかったのか?

米山氏の話によれば、墨東病院というのは東京の錦糸町のど真ん中にある、とても大きな病院で、トップクラスの医療チームが集まる、まさに日本のシカゴ病院と言っても良いほどの存在らしい。

その墨東病院ですら、「医師不足」の問題を抱えているのである。

厚労省は「医者は絶対にあまる」と言い続けてきた。
二十年間ひたすら一割削減のまま、医師を減らし続けてきた結果、先進国の中でも最も医師の少ない部類の国に…その間に医療は高度化し、先進型の医療を行うには医者が足りないということに、ようやく気がついた、とか。

中でも、産科小児科の絶対数は特に不足している。
それはなぜか?…簡単に言えば、「もしも患者を死なせたら家族の怒りが激しいから」だ。
裁判になり、医療ミスが原因と判決が下れば、億単位の支払いが命じられることも少なくない。
だから、産科小児科の医師の成り手が少ない。

また、研修医の制度が変わったことも、医師不足に拍車をかけている。
研修医は自分で研修先を選べるようになり、その結果、強制力を以て医師を配分するという「医師臨床研修制度」による医局支配は崩壊し、殊に地方の病院で医師不足が発生することとなった。現在では、新大病院ですら研修医が不足しているとのことだ。

さらに、医師不足は患者側にも問題がある。
たとえば...「コンビニ受診」...会社を休みたくないので、特に急患でもないのに、救急で来る...夜中の二時に来て「花粉症で鼻が詰まって眠れない」など。
誠にもって呆れた話だ。
医師の忙しさは増すばかり、当直してそのまま次の日も勤務という劣悪な勤務環境。
結果として勤務医がどんどん辞職して、医師不足の一因となっている。


現在、医療制度を整備するのは都道府県知事の責任となっている。
新生児医療施設の絶対数が不足している中でも、東京都は一生懸命にそれを作っているほうだが、周辺の県からどんどん患者が集まってきているので、常時満タンの状態らしい。

7病院受け入れ拒否事件の際には、
桝添大臣は東京都を批判し、石原都知事は「今のままでは無理」と言う...厚労省と東京都が責任のなすりあい。

都道府県間の医療の面での連携は必ずしも十分ではない。
この状況で高度な医師を必要数集めるのは絶対に無理だ。
救命救急をやろうと思えばなおさらのことだ。(特にがんの放射線治療については地域間格差が大きく、新潟県は特にそれが少ないと言われている)

国が一定レベルで面倒見ていかないと、無理なのでは!?


ならば、医局制度は復活すべきか?

大学教授が全医局員の人事権を握るのは極めて不自然。
人事権を持っている教授に逆らうと将来は真っ暗。そこにはいじめの構図がある。

医局制度の崩壊は時代の必然だが、問題はそれに代わる医師配分の制度がないこと。

イギリスは医者を輸入している。
日本もそれをやれば良いのでは!?
なんだかんだと言っても、給与水準で言えば、日本は中国の10倍だ。
だったら、中国などから優秀な医師を輸入してくれば良いのではないか!?

医者は偉くなるためには論文を書かなくてはならないが、それを書くためには、症例数が多くなくてはダメ。
このままでは、地方に勤務する医師はなおさら少なくなる一方だ。
地方に勤務することが医者のキャリアの上でプラスになるという制度を作ってあげれば、地方の医師不足も解消されるのでは!?


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コメント (1)

ムササビ:

ムササビです。
医師不足の問題、かなり深刻ですよね。
現在ですら、これだけ危機的な状況なのに、将来はどうなるのでしょうか?

話題が飛躍するようですが、人は何故病気になったり死んだりするのでしょう。
死はいかなる人間にも必ず訪れるものなのに、日常的には語られることがありません。
宗教や哲学のテーマと考える人が多いと思います。
しかし最近の科学では、死の原因、意味について新しい知識をもたらしてくれました。

私たちには全員、有限の余命があります。
私たちが生きるということは、死に向かうということに他なりません。

死に向かいあうと、色々なことを考えます。

私はそんな不安を持つ患者さんや家族の方の話し相手になれるような医師が、もっと沢山いたら良いと思います。

その為には言葉や考え方の異なる外国からの医師には不安を感じます。
もちろん否定するつもりはありませんが、心のケアも治療には不可欠なものだと考えるからです。

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2009年05月05日 04:56に投稿されたエントリーのページです。

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