その天体がこぎつね座に発見されたのは1979年の春でした。
新星の詳しい説明は省略しますが、その天体は新星に似て新星ではない奇妙な明るさの
変化をする星でした。
当時、高校生だった私は純粋にその恒星を自分の眼で捉え、明るさの変化を実際に観察
してみたくて仕方ありませんでした。
いても立ってもいられず、近所の空き地に愛用の口径6.5cmの屈折赤道儀を担いで出か
けました。
広い空き地の真ん中で天体望遠鏡を組み立て、目標天体を狙おうとしたその時でした。
一台の自転車が空き地と突っ切るようにして、私の元に近付いて来たのです。
時刻はもう午前零時を回っていました。
「こんなところで何してるんだ」きつい口調で若い男性が私に話しかけました。
「星を見ているんですよ、よろしかったらいかがですか」
私の返事に、相手は拍子抜けしたのか、フラフラとこちらに近寄ってきました。
こぎつね座の新星状天体の話をしましたが、相手が興味を持って聞いている様子はあり
ません。
そこでやむなく望遠鏡の向きを変えて夏の星雲星団をいくつか見せてあげました。
はじめは警戒していた男性も次第に打ち解けてきたようでした。
「実はな・・・」
男性はポツリポツリと自分自身のことを話始めました。
職場で上司や同僚とうまくいっていないこと。自宅の隣人ともうまくいっていないこと
。
どうやら上司と隣人が自分を陥れようと、連携して自分に危害を加えていることなど、
次々に話を始めました。ほとんど被害妄想の世界です。
話を聞いているうちに、私も次第に怖くなってしまいました。
しかしこの場を逃げ出すわけにはいきません。大切な天体望遠鏡があるのです。
私は男性の話に反論もせずに相槌を打ち続けていました。
男性は同じ話を何度も何度も繰り返しました。
気が付けば辺りは薄明るくなっていました。
「おぉ、もう朝だ、あんたも早く家に帰りな、今夜は色々話が出来て楽しかったな」
男性はそう言い残すと、自転車に乗って去っていきました。
(とうとう観測出来なかった・・・)
私は呆然としながら男性の背中を見送りました。
帰宅してから、この近所に若いOLや女子高生を自転車で追い回す不審者が出没するこ
と聞きました。
コメント (1)
私も思い出しました。
ある日の昼間、普通に外を歩いていると、私の前方にいた男が急に近づいてきて、「どうして俺のことをつけ回しているんだ?誰に頼まれた?」と、いきなり訳の分からんことを言ってくるではありませんか。
何のこと?って感じでポカンとしていた私でしたが、男の態度から、どうやら精神的に病んでいるらしきことが見て取れたので、当たらず触らずその場を立ち去ろうとしましたが、相手の男がつきまとってきて「逃げるなよ!誰に頼まれたのか言えよ!」と絡んできます。
こんな時、私はダメですね。ホントにダメだ。
優しく受け流してあげることができずに、「うっせぇー、てめぇー、いい加減にしろ」と相手の胸ぐらをつかんで押し倒してしまいました。
すると、相手はぶつぶつ言いながら去っていったのですが、
あー、自己嫌悪。
しかし、つくづく感じます。
世の中には悩みや重圧に押しつぶされている人が多いですね。
もしかしたら「不審者」扱いされている人たちの中に、そういう人がいるのかもしれません。
誰にも危害を加えずに、ただ人をつけ回す程度だったらまだしも、子どもに危険を及ぼされてはたまりません。
どうしたら良いのだろう。
どうやら悩みを聴いてあげる場が必要らしいことは、skymaxさんのお話で感じました。
投稿者: 笠井/住民安全ネットワーク | 2008年07月15日 08:38
日時: 2008年07月15日 08:38