◇「やれば必ず成長する」
「正直、毎日が戦いでした」。県南西部の小学校。男性校長は5年前の日々を振り返った。
転入生の男児(5年)は12月まで東京都内の児童精神科に入院していた。ADHD(注意欠陥多動性障害)。入院前の学校では、同級生ができることが自分にできず、いら立って机を倒す、文房具を窓から捨てるなど荒れ、不登校になった。
親は「家にいるより良いだろう」と教育施設のある精神科に入院させた。男児を理解し、適切な支援をしてくれた病院の分教室。この間、男児にとって「学校は楽しい場所」に変わった。ところが、3学期に転入してくると、また荒れた。算数の授業が国語に変わるなど、突然の予定変更にパニックになる。男児は大声で叫び、壁をけった。
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同小はもともと、小規模校のためか教諭全員で問題に対処しようという雰囲気があった。新年度が始まり、校長は職員全体で男児に接しようと提案。児童一人一人の違いに配慮できる教諭を担任に付けた。生徒指導部会で毎回のように支援方法を検討し、職員全員で共通理解を図る。前日に次の日の授業を予告する▽極力、予定変更しない▽男児と波長の合う子を隣の席に座らせる――。さらに「友達をたたかない」「友達をかまない」「つばをはかない」など、今日の目標を男児と約束し、できたら褒める。できなかったらどうしてできないのかを一緒に考える。試行錯誤を重ね、クリアできるまで続けた。
地道で細かい支援が奏功し、男児は少しずつ成長した。友達との関係も良くなり、秋ごろには、自分の感情をコントロールできるようになったという。現在、男児は定時制高校に通い、コンビニエンスストアでアルバイトをしている。
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必要最低限の学力と社会性を――。自立して生きていけるように学齢期に身につけさせたい力として保護者は二つを挙げる。得意不得意があり、能力に偏りのある発達障害者は、そのアンバランスから他者とコミュニケーションをうまく取れず、トラブルの元になる。「やれば確実に成長する。良い面は必ず出てくる」。校長は経験則からきっぱりと話した。
卒業式の日、男児の母親は校長の一言が忘れられないという。「教師は後ろ向きでは、いけない。どこまでできるか分かりませんが、今後も積極的に受け入れていきたい」。同小にはこの春、アスペルガー症候群の新1年生が入学した。男児の母親は「次につながったことが、何よりもうれしい」と笑顔を見せた。
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<メモ>
◇発達障害
自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などの総称で、先天的な脳障害が原因とされる。自閉症やアスペルガー症候群は他人とうまく意思疎通できない、パターン化した行動やこだわりが強いなどの特徴を持つ。ADHDは不注意、多動、衝動的に行動するなど。LDは知的発達に遅れはないが、読み書きや計算など特定分野に偏りがある。いずれも根治しない。外見は普通の子どもと変わらないため、「親のしつけが悪い」などと誤解されることが多い。