◇頑張る息子がうれしい
障害のある児童生徒一人一人に応じて適切な支援を行う「特別支援教育」が始まり、今年度で2年目を迎える。ようやく、発達障害の子供たちに支援のスポットが当たるようになったとはいえ、周囲の理解は十分とはいえない。支援を必要とする子供たちを取り巻く状況を報告する。
さいたま市大宮区のソニックシティ30階。東京電力のPR館でトットくん親子に会った。「おなかすいた。マック食べに行こうよぅ」。眼下のマクドナルドを指すトットくん(8)。「この子、視力検査は0・1なんです。本当に0・1ならあのマックは見えない」。父親(43)は苦笑して続けた。「視力検査の時にどうすれば良いか分からなかったんでしょうね」。トットくんの外見からは障害をうかがえない。父親に甘える息子の姿はどこにでもある休日の風景に見える。
◇ ◇
「アスペルガーなトットくんとがんばるぞ!」
「特別支援教育」をキーワードに検索すると、このブログが出てくる。アスペルガー症候群は脳の先天性障害。知的遅れはないが、こだわりが強く、冗談や皮肉など微妙な感情を読み取ることが苦手。完治はしない。ブログは息子の成長や小学校での特別支援教育を記した子育て日記だ。
小学1年の夏休み前、母親(42)は担任教諭から息子が集団生活を乱すと告げられた。「普通じゃないです。こんな子、初めてです」。暗に受診を勧められたと受け取った。学校への不信感を抱きつつ、東京都内の専門病院に向かった。丸一日の心理テストを終え、診断が下ったのは2週間後。聞いたことのない障害だった。
トットくんは幼稚園の時から自分のしたいことをしていた。完ぺき主義。字をきれいに書こうと消しゴムで消してまた書く。やがて、ノートは真っ黒になり、机の上の物をごみ箱に捨ててしまう。テストは満点でないと「自分のじゃない」と言い張った。
わがままな息子を、父親は「友達できないぞ」としかり続け、時にはたたいた。だが、初めて息子の障害を知り、「怒らなくていい。キチンとした子供じゃなくていい。この子なりの成長を楽しめばいい」と思うようになったという。一番つらいのは息子。障害のこと、息子が困難に感じること――。息子を一番理解する専門家になろう。落ち込む母親をそう励ました。
◇ ◇
ただ、障害を知れば知るほど将来への不安は募る。支援態勢が整わず、無理解な教育現場への怒りもわいてきた。授業中、粘土やお絵かき、時には図工の道具を使って、自分の世界に入り込む息子。授業参観で息子を見た他の保護者は「困った子がいる」と思うだろう。病名を打ち明けると、「何ですかそれ? 薬ないんですか」と迷惑そうな顔をした教諭もいた。ブログには、人員や予算不足、特別支援教育に及び腰な学校側の現状もつづっている。自分が死んだら息子は生きていけるのか。そんな思いが行間からにじむ。
「息子が少しでも頑張った話を聞くとうれしい。同時に、頑張り過ぎて疲れてないか心配になります」。ソニックシティの展示品で無邪気に遊ぶトットくん。父親は「せつないですね」とつぶやいた。
…………
<メモ>
◇特別支援教育
07年4月、学校教育法の一部改正により本格実施され、特殊教育にアスペルガー症候群など発達障害を加えた。発達障害児童・生徒が通常学校に通う場合、学校側に▽支援策を検討する「校内委員会」の設置▽保護者や医療機関などと連絡調整を担う「特別支援教育コーディネーター」の指名――など教育体制の整備を求めた。しかし、要となるコーディネーターを教頭が兼務するなど、予算措置はほとんどなく研修制度も不十分だ。県教委の04年の調査では「知的発達に遅れはないが、学習や行動に著しい困難がある」児童生徒は全体の10・5%に上った。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080409-00000081-mailo-l11