[ カテゴリー:生活, 福祉 ]

川崎市簡易宿泊所火災事件の背景にある住宅・福祉問題ー高齢者の住まいの貧困と向き合えー

簡易宿泊所とは

まず簡易宿泊所とは、旅館業法における適用を受ける宿泊施設である。

1960年から70年代など、高度経済成長期は、日雇い労働者や出稼ぎ労働者、不安定就労者などを中心に多くの人々が全国各地で働きながら、一時的な住まいとして利用してきた歴史がある。

高度経済成長期に簡易宿泊所は爆発的に増加した。

この簡易宿泊所は「木賃宿」や「ドヤ」と呼ばれることもあり、その宿泊料は全国的にも1泊あたり500円から3,000円程度と安い。

施設内は2畳から8畳など金額によっても多様だ。食事の有無も施設による。

電気やガス、水道使用料などは宿泊費に入っており、個別で契約しなくても利用可能だ。非常に便利な施設といえる。

最近ではカプセルホテルもこの簡易宿泊所に該当する。カプセルホテルを利用したことがある方も多いのではないだろうか。

東京都台東区(山谷地区)、大阪市西成区(あいりん地区)などは、日雇い労働全盛のころ、これら簡易宿泊所が多数存在する街として有名となった。周辺には銭湯や食堂、ハローワークなども設置され、多くの人々が生活する場所となった。

現在の簡易宿泊所の宿泊者とは

しかし、現在はその簡易宿泊所の利用者はそのような日雇い労働者ではなく、高齢化した元労働者や生活保護受給者、外国人のバックパッカーなどが主な宿泊者になっている。

特に、今回の火災事件でも明らかになったのは、生活保護を受給している高齢者の存在だ。

なぜ生活保護を受けている高齢者が簡易宿泊所にとどまっているのだろうか。

高齢者の住まいが足りない

じつは近年、高齢化の進展と合わせて、低所得高齢者の住宅が急速に足りなくなっている。

市営住宅や県営住宅などの公営住宅も一時期より減らしてきており、需要に追い付くだけの住居が整備されていない。

一方で、民間賃貸住宅は再開発などの影響から、安いアパートなどが次々に改装され、改装後の家賃は高額に跳ね上がる。

さらに、低所得者でも借りられる低家賃の民間アパートがあったとしても、身寄りがない高齢者を積極的に受け入れてくれる大家や不動産屋は少ない。

居室内で起こる孤立死も増加しており、そのような事故物件になってしまうことを嫌う傾向も強くなっている。

要するに、公営住宅が足りず、民間賃貸住宅も高家賃化や高齢者排除の大きな潮流があり、高齢者が住まいを確保することが困難になりつつある。

老人漂流という現象

そのため、役所に相談に来られた高齢者を福祉事務所がどこに紹介せざるを得なくなるかと言えば、今回のような危険で劣悪な簡易宿泊所などの施設となる。

他にも、貧困ビジネスと指摘されて久しい無料低額宿泊所や無届けの有料老人ホーム、お泊まりデイサービスなどさまざまである。

これらの現象はまさに住まいを失った高齢者の『老人漂流』といえる現象だろう。

だから、需要に応えるために、簡易宿泊所の経営者も違法だと知りつつ、半ば善意もあり、2階建てを無理やり3階に増築したり、拡張して宿泊者を受け入れる。

当然、対象者はいくらでも存在するわけであり、空きを待っている人々すら存在する。

そして、公営住宅とともに、社会福祉法では「養護老人ホーム」もこのような低所得高齢者の住まいとなることを想定している。

この養護老人ホームも需要を満たすだけの床数を当然ながら備えていない。

有料老人ホームや特別養護老人ホームは増えているが、相変わらず低所得者対策の養護老人ホームは増えない。

要するに、管理が大変であり、事業者に利潤が少ない事業であるためだ。

社会福祉法人も必要だと理解していても、経営などを考えると、手を出せない事業となってしまっている。

このような住宅政策の不備や福祉政策の不備は、危険で劣悪な簡易宿泊所を増加させていく。

そして、低所得高齢者の生命や財産などを容赦なく奪っていく。この繰り返しである。

今度こそ火災事件の教訓を活かせ!

2009年には群馬県渋川市で「静養ホームたまゆら」が今回同様に火災を起こし、入所者10名の尊い命が奪われた。

この10名も都内で住まいを失った生活保護受給の高齢者であり、福祉行政がやむを得ず、施設を利用していた状況だった。

何年かおきに、このような低所得高齢者の事件が起こっている。

原因は住宅や福祉の不足によるにもかかわらず、一過性の対策で終わってしまう。

簡易宿泊所は、あくまで宿泊施設であり、永住する場所ではない。

そのような場所に住まわざるを得ない大量の高齢者と私たち社会がどのように向き合い、どう問題解決に向かうべきなのか、今回の事件こそ教訓にして考えていく必要がありそうだ。

健康で文化的な最低限の住まいや居住とは何だろうか。

少なくとも、いかなる理由であれ、違法建築で危険な住宅であっていいはずはない。

これらの住宅は氷山の一角であり、今現在も増え続けることはあっても減ることはない。

このような住宅と福祉行政はどう向き合うのかも問われている。

丁寧に低所得であっても最低限の安全な住まいを提供していく義務が福祉行政にあることは間違いないだろう。

適切な転居支援や居住支援、住宅政策と福祉政策の充実が今度こそ望まれる。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/fujitatakanori/20150520-00045893/

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