[ カテゴリー:生活, 社会 ]

救急車の有料化、僕は賛成です

今日は読売新聞の記事、「軽症患者の救急車、有料化案」に関して、書き下ろします。

意識を失うような状態や、出血している事故などに対して救急車の出動を要請することは、誰も異論を唱えないでしょう。ところが、医療現場にいると、こんな軽症で救急車を要請するのかと愕然がくぜんとすることも少なからずあるのです。救急車も「みんなのお金」から支出している公的扶助のひとつだと思っています。ですから、誰もが救急車を要請する権利があると思っています。ところが一方で救急車の台数にも人員にも限りがあります。救急車が不要な人のために、救急車が出動し、本当に困っている人が後回しにされては、何の目的のための救急車かわからなくなります。

 

5000円くらい払ってもらっては?

タクシー代わりに救急車を使っているように思われる人も少なからずいます。ではどうやって、限りある医療資源をうまく活用すればいいのでしょう。たくさんの意見が出されて、そして、みんなが納得のいく結論が導かれればいいと思っています。そんな議論のなかのひとつの意見として、僕は救急車の有料化には、実は賛成なのです。前回のコラムで、「生活保護の廃止は明らかに反対だ」と申し上げました。生活保護をもらっていながら、僕が想像する生活苦とはかけ離れた身なりや生活をしている人を少なからず知っていても、生活保護の廃止には反対を唱えます。ところが、「救急車は基本的にお金をもらうシステムが必要だろう」というのが僕の持論です。タクシーよりも少々高額がいいと思っています。僕は5000円ぐらいを支払ってもらうことがいいのではと思っています。そして、搬送先で明らかに救急車の要請が必要と思われるときは、無料とするというのはどうでしょうか。

 

無料タクシー気分の患者さんも

現状は、誠実に一生懸命生きている人が損をしています。「救急車など呼ぶのは申し訳ないので、なんとかタクシーを手配して病院に来た」とか、「一晩痛みを我慢して、やっと朝、病院に辿たどり着いた」とか、そんな真面目に生きている人々、他人になるべく迷惑をかけないように生活をしている人々がたくさんいます。そんな人々を診察すると、「なんですぐに救急車を呼ばなかったの」と心のなかで叫んでいることもあります。でも、そんな多くの真面目な方々がいる一方で、少数の不埒らちな患者さんがいることも間違いない事実です。救急車を無料のタクシーとして利用し、救急外来を医療コンビニのような気分で訪れる患者さんも実際に存在するのです。

精いっぱい真面目に暮らしている人が、あまりにも馬鹿をみることは間違っていると思います。タクシー代わりに救急車を利用する人は、常習犯が多いのです。全員に5000円をお願いすることが憚はばかられるのであれば、毎年1回は無料、その後は基本的に5000円、医療サイドが必要な救急搬送と認めれば、その5000円も無料に。そんなシステムでもいいでしょう。

 

「みんなのお金」上手に使おう

「救急車を有料にする」という発言をすると、「救急車を呼ぶことを躊躇ちゅうちょしたので、手遅れになったときはどうするのだ」という反論が通常、生じます。それは致し方ないのです。限りある「みんなのお金」を上手に使わざるを得ません。世の中にゼロリスクはあり得ません。医療もそうです。

救急車を呼んだ方が良いのか、または急病人の対処で迷ったときは、東京都には救急相談センターがあります。#7119でつながります。しかし、このシステムは東京都のみのもので、全国的には普及していません。結局は119に連絡をして、ともかく救急車を要請しようというシステムが稼働しています。今まではそんな制度で何とか回っていました。ところが、そろそろ限界だろうと思っています。

救急車が本当に必要な人に利用されるシステムが必要です。今回の財政制度等審議会の提案を機会に、「みんなのお金」を使うシステムを国民みんなが考えるのは良い機会だろうと思います。完璧な、100%安全なシステムはないと思っています。少々のリスクは引き受けて、僕たちは生きているのです。

人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

新見正則(にいみ まさのり)

帝京大医学部准教授
1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

コラムへの意見・質問などは  こちら( t-yomidr2@yomiuri.com )
どの執筆者に宛てたものかをメールのタイトル等に書いてください

 

(2015年5月15日 読売新聞)

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=118277

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