うその電話で現金をだまし取る「特殊詐欺」の被害が止まらない。手口を巧妙化させる犯人グループから、なんとか高齢者を守ろうと、各地で取り組みが始まっている。詐欺師との攻防の最前線を追った。
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2月12日の夕暮れ時。混雑する羽田空港第1ターミナルの到着ロビーで、日本航空旅客案内係の阿部碧（みどり）さん（27）は、70代とおぼしき女性に目を留めた。きょろきょろと落ち着かず、旅行客には珍しい軽装。「迷ったのかな」。単純にそう思い、声をかけた。
すると女性は「熊本から息子にお金を渡すために来たんですが、夫とはぐれてしまって…」と問わず語りに明かし、ぽろぽろと涙をこぼした。息子から「会社の金を使い込んだ」と電話で告げられ、夫婦で上京したのだという。
女性の携帯電話は、ひっきりなしに鳴っていた。阿部さんが電話に出て「息子さんですか」と聞くと「はい」と言葉少な。「息子の声だから大丈夫」と女性は言ったが、発信番号は非通知で、待ち合わせ場所も「新整備場駅」「京急蒲田駅」と次々に変わった。
阿部さんは悩んだ。詐欺かもしれないが「もし違っていたら失礼になる」。上司に対応を引き継ぎ、夫と合流した女性といったん別れたものの、気になって後を追った。タクシーに乗り込む直前の夫婦を、懸命に説得した。「警察に相談してみましょうよ」
空港内の交番に案内すると、本物の息子と連絡が付いた。見知らぬ土地にわざとおびき出して、摘発の手をかわす「呼び出し型」のおれおれ詐欺だった。
「マニュアル通りではなく、一歩踏み込んで声を掛けたことがよかった」。阿部さんはほっと胸をなで下ろす。夫婦はこの日の最終便で帰郷した。固く握りしめた布袋には2千万円の現金が入っていた。
地方から東京に高齢者をおびき出す「呼び出し型」のおれおれ詐欺に、日本航空（JAL）の対応は素早かった。羽田空港で詐欺未遂事件が発覚すると、全国の空港カウンターに注意を呼び掛けたのだ。
成果はすぐに表れた。2月27日、長崎空港のJALカウンターを80代の女性が焦った様子で訪れた。東京に向かうため、午後4時55分の羽田便をキャンセル待ちし、その日の最終便で長崎に戻るという。
「風邪をひいている息子に一目だけでも会いたくて」。女性はこう説明したが、東京での滞在時間はわずか1時間ほど。不審に思ったカウンターの担当者が、息子を名乗る男に電話で「お母さんの下の名前を言ってみて」と迫り、600万円の被害を防いだ。
長崎発の便では、3月にもJALの担当者が詐欺を2回続けて見破っている。いずれも滞在時間の短さや様子がおかしいことに着目し、上京の目的を詳しく聞き出したことが奏功した。
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高齢者から現金を奪い取る手法は多様化し、最近は「呼び出し型」や「送付型」が急増している。被害額も右肩上がり。手口を巧妙化させる詐欺師になすすべがないかのようだ。
だが、だまされても犯人側に現金が渡る直前に、金融機関などの「水際」で食い止める水際阻止率は年々向上し、昨年は5割に迫った＝グラフ参照。
都道府県の人口や経済規模が異なるため、単純な比較はできないが、九州7県では宮崎の阻止率が6割だったのに対し、福岡と長崎、熊本は4割に満たず、地域間で差が生じつつあるのが実情だ＝表参照。
阻止率が46・6％だった大分県警は2013年10月から、被害を2回防いだ人を「声かけ名人」に認定する制度を導入した。大分県由布市の庄内郵便局に勤める甲斐由香里さん（54）は今年2月、県内で3人目の名人に認定された。
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庄内郵便局を40代の男性が訪れたのは昨年10月。窓口で190万円を下ろそうとした男性に、甲斐さんは「何か買われたのですか」と声をかけた。返事は「裁判の費用」とあいまい。こうした場合はアンケートに答えてもらい、不審点があれば警察に連絡する。
しかし、甲斐さんは手続きを進めながら、世間話を続けた。「弁護士さんにお金を送るんですか」と水を向けると、男性は「いえ、弁護士に付いている人です…」。確信はなかったが、上司と相談して警察官を呼び、被害を食い止めた。
「いきなりアンケートを渡して聞き取りをすれば、疑われたお客さんはいい気持ちはしませんよね。何げない会話なら安心して話してくれます」。甲斐さんは見抜くこつをこう語る。
名人制度は、被害を防いだ人を顕彰することで周囲の人も意識を高めてもらうのが狙い。いわば“おせっかい”の勧めだ。大分県警の捜査幹部は「水際で気付くことができれば『だまされたふり作戦』で容疑者の逮捕にもつなげられる。対策の要だ」と話す。
昨年、大分県内で阻止した被害額は前年の2倍、1億1600万円に上った。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150507-00010001-qbiz-bus_all
