待機児童問題の解決のため保育所の整備が急がれるなか、その建設をめぐって近隣トラブルは増えている。
ここ数年でも、品川区やさいたま市、福岡市で保育所の開園が中止になった。練馬区では認可保育所をめぐって2012年夏、「平穏に生活する権利を侵害された」として住民が事業者を提訴したケースもあった。
今年3月、東京都は、住宅地の騒音基準を45デシベルと定めている都環境確保条例を改正。小学校就学前の子どもの声は、騒音の規制から外すことを決めた。昨年、都内62区市町村に子どもの声に対する苦情の有無を調査したところ、約7割の自治体が「苦情があった」と回答。加えて、40の自治体が「規制の見直しや緩和」を求めたため、子どもの声は騒音から除外したという。
「一律に数値では判断しませんが、健康被害が出るなど『受忍限度』を超えた騒音があれば、場合によっては勧告や命令の対象になります。ただ、保育園と住民の良好な関係が保たれていれば、住民側の『受忍限度』の基準も高まっていくので、そういう方向に進むことを期待します」(東京都環境局)
とはいえ、切実に悩む人もいる。兵庫県に住む無職の男性(68)は、自宅から50メートル先に保育園があり、園庭での「お遊び」の時間は、キーキーという園児の叫び声が響く。しかも、自宅の反対側には道路を隔てて小学校のグラウンドが隣接しており、少年野球の「声出し」にも悩まされる。両方とも、男性が住んだ後に新設されたという。
「子どもの声は騒音ではない、我慢するべきだという良識派の学者や評論家は一度隣に住んでから言ってほしい。保育園ができることがわかっていれば、家を建て替えるときに2重窓にしたのに。もう今は経済力がありません…」
隣の保育園を「許容」できるか否かの境界はどこにあるのか。
背景には、少子高齢化社会がある。子育て世代とリタイア世代の社会における関係性は大きく変わった。教育費などの子育て経費に悩む子育て世代は、蓄えも多い上に年金で悠々自適に暮らす高齢者に不信感を抱き、一方のリタイア世代は、保育園をはじめ若者が「外に頼る」姿勢に非寛容だ。
大家族でもまれて育ったリタイア世代にとっては、核家族化した子育て世代は過保護で苦労を知らないと映るのかもしれない。退職して静かに暮らしたい世代の権利意識と、子育てに悩む世代の権利意識が真っ向からぶつかる形にもなっている。人口バランスの崩れが、社会に新たなストレスを生んでいる。
※AERA 2015年4月20日号より抜粋
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150424-00000003-sasahi-life