小刀で鉛筆を削れないなど不器用な子供の増加が指摘されて久しい。家庭生活が電化・合理化される中、親の世代が不器用になっていることも一因とされる。手先を使うことは人間の精神発達にも影響するため、専門家は「家庭での手伝いや遊びを通して手先を使う直接体験を増やしてほしい」と話している。(日野稚子)
◆鉛筆削れず
都内で開かれた小学生向けの鉛筆削りの体験イベント。鉛筆に小刀を当て、緊張した表情の子供たちが手を動かしていく。小学5年の長男(11)を参加させた母親(30)は、子供のぎこちない手つきを見て、「もっと力を入れて」と声をかける。出来上がりは先が極端に短く不格好。それを見て苦笑いを浮かべた母親自身、小刀で鉛筆を削った経験はないという。
子供たちの手先の「不器用化」が指摘されて久しい。
昭和24年に公表された子供の能力に関する調査では、6歳の子供の7割以上が小刀で鉛筆を削ることができたのに対し、平成15年の大規模調査では、小学6年生、大学生ともに2割程度にとどまった。
箸を正しく使えない子供も増えている。昭和10~11年の調査では、箸を大人と同様に使いこなせるようになる年齢は3歳半だったが、最近では小学6年生でも正しく使える割合が2割程度とされる。
生活習慣と子供の手の器用さに関する実態調査研究を行ってきた目白大学名誉教授(保育学)の谷田貝公昭さんは「子供の手先の器用さについて、過去よりも秀でた調査結果が示されることはない」と話す。
◆精神発達にも影響
谷田貝さんによると、子供が不器用になっているのは、電化・合理化が進んだ家庭環境で育った親の世代も子供に生活で使われる道具の使い方を正しく教えることができないためだ。
万能ナイフメーカー、ビクトリノックス・ジャパン(東京都港区)が今年9月、6~15歳の子供の親105人を対象に実施した調査では、「子供はナイフを一切使わない」と回答した親は58・1%。親自身も子供のころに「ナイフを与えられていない」という人が6割超だった。
危険を敬遠して子供にナイフやハサミなどの道具を使わせない親は多いが、安全性を確保した上で、こうした道具の使い方を学ばせることは重要だ。
手は運動器であり、物の温度や手触りをみる感覚器でもある。手を使わないとその両方の能力が磨かれず、精神発達の問題にも関わってくるためだ。
「小学生を調べたら、本のページをめくる能力が落ち、時間がかかるようになっていた。手先が器用でないことは、そんな当たり前のことができなくなるということ」と谷田貝さん。「器用さを育むためにも子供に家事手伝いや手先を使った遊びに取り組ませてほしい。そうすることで自立心も養われる」と話している。
■子供の手伝いは「おもちゃ片付け」など させない理由は「自分がやった方が早い」
親は低年齢の子供にどんな家事の手伝いをさせているのか。ミサワホーム(東京都新宿区)が8歳までの子供がいる母親216人を対象にした調査をまとめた。
調査によると、子供にさせる手伝いとして多かったのは、「おもちゃの片付け」(99.5%)や「ゴミ箱にゴミを入れる」(同)、「簡単な洗濯たたみ」(94.0%)など。
一方、比較的少なかったのは、「野菜の下ごしらえ」(18.5%)、「米研(と)ぎ」(21.3%)など。させない理由として「自分がやった方が早い」と回答する親が多かった。同社は「子供に能力があっても、手伝いをさせていない親が多いのではないか」と指摘している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20141013508.html