■黄砂が含む有害物質、人体への影響は?
黄砂はアジア大陸内部の砂漠や乾燥地帯の砂塵が強風によって舞い上げられ、日本では春を中心に風に乗って降り注ぐ現象(あるいは砂塵そのもの)です。20世紀半ばを過ぎて大気汚染が顕著となった現在では、黄砂と一緒に大気中の有害物質も運ばれてきています。
まだ医学的に黄砂の影響とは証明されてはいないのですが、著者の経験として、黄砂が多く降ってきた日やその翌日に咳や痰、気管支喘息の発作が生じた患者さんを診療したことがあります。ですが、ちょうど黄砂の舞う季節には風邪や花粉症も流行していますから、仮に呼吸器系の症状が悪化したとしても、それが黄砂を原因としているのかを断定することが難しいのです。
また、黄砂にはごく微量ながら鉛などの重金属も含まれています。可能性は非常に低いと思うのですが、肺の毛細血管を通して人体へ少しずつ蓄積すると、将来こうした金属に対する慢性中毒症状が現れるということも完全には否定できません。
■スギ花粉と黄砂との違い
春はアレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎、いわゆる花粉症の季節でもあり、同じアレルギー性疾患である気管支喘息も悪化する傾向があるのですが、それぞれの原因となる物質にはどのような違いがあるでしょうか?
まず、スギ花粉ですが、20~30μmぐらいの大きさでペクチン(多糖類)や蛋白質で構成されています。本来のアレルギーとはこうした蛋白質が体内で分解されたペプチドに対して生じる、過剰な免疫反応を指します(注意:近年問題となっている金属アレルギーなどの特殊な病態は別としてお考えください)。
これに対して、黄砂は主に石英、長石などの鉱物、ケイ素(原子記号Si)やアルミニウム、鉄などを主体とする砂そのものと言えますが、日本で観測される黄砂の多くは小さな粒子(1~4μm程度)であり、一度上空に舞い上がって風に乗って降り注ぎますので、その途中で大気汚染の成分である硫酸イオンや硝酸イオン、あるいは鉛(なまり)までも含んでしまうことになります。
蛋白質ではない物質が直接アレルギー反応を起こす可能性は少ないのですが、黄砂の粒子はスギ花粉に比べて小さいだけに、その中でも比較的小さなサイズの粒子は肺の隅々にまで到達し、広範囲で慢性的な炎症を起こすことも考えられます。
また、黄砂が日本に届くまでには大気中のカビや細菌の毒素LPS(リポポリサッカライド)を含むこともあり、そうした成分によってアレルギー反応が生じ、気管支喘息化を悪化させているとも考えられます。
■まずは個人単位での予防を
花粉症の対策同様、黄砂への対策もマスクによって黄砂を吸い込まないよう予防することになるのですが、前述したように日本へ届く黄砂の粒子は花粉より更に一回り小さいサイズが多いようです。このため、マスクも下記のようなものを選ぶ必要があります。
・粒子系が数μmまでの細かい粉塵も防ぐもの
・風によって地上からも舞い上がるので、アゴのところまですっぽり覆うことができる大きいサイズのもの
・静電気を発しにくい(少しでもマスク表面に付着させない)もの
衣服も花粉と同じように静電気を発しにくいものを選ぶことも大切ですし、帰宅時には体の表面についたホコリもしっかり落としてから屋内に入るようにしてください。
■あなたの街に黄砂は降っていますか?
著者が住んでいるのは山口県ですが、黄砂が降ると山は霞んで見え、朝は汚れていなかった自動車も夕方になると黄砂がホコリとなって積もっているのが一目でわかります。福岡県から転勤して来られた患者さんに伺うと、黄砂のために100m先も見えないこともあったそうです。
こうした黄砂の生活への影響は西日本にお住まいの方は言うまでもなく実感されていると思いますが、黄砂とは縁のない地域にお住まいの方はピンとこないかもしれません。しかし、近年の気候変化や仕事で転勤、あるいはセカンドライフを温暖な地域で過ごしたいという場合には、ぜひ黄砂のことも頭の片すみに覚えておいてください。気がつけば黄砂の影響で呼吸器症状が悪化していた……ということも考えられるのです。
日本だけでなく東アジアの一部の国へも有害成分を含有した黄砂が降り注いでいると聞きます。目覚ましい工業・経済の発展を遂げつつある国々にも、それに伴う大気汚染が進み、それが黄砂を有害物質の嵐と化しています。今後のことを考えると本来はアジア全域の国家単位での環境問題対策が望まれます。
文・吉國 友和(All About アレルギー)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140411-00000004-nallabout-hlth