「部屋を片付けられない」「不注意のための失敗が多く転職も頻繁」。発達障害の一つ、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の症状に悩む大人の受診が増えている。大人のADHDとはどんな症状で、本人や周囲はどう対応したらよいのだろうか。 (安田奈緒美)
「台所で洗い物をしていて、他の用事を思い出すと洗い物をほったらかしにする。ひどいときは水を出しっぱなしのときも」
兵庫県芦屋市のキャリアカウンセラー、広野ゆいさん(41)はADHDの症状を持つ。子供のころは毎年通信簿に「忘れ物が多い」と書かれた。大学教授の秘書として就職したが、論文整理や金銭管理がうまくできず、うつ症状が現れた。結婚を機に退職。しかし主婦になっても片付けができない。夫に文句を言われ続けた。
どうして他の人にできることが、自分はうまくできないのか。「親のしつけが悪かったのでは」と恨みに思ったこともある。
20代後半に、ADHDに関する本を読んだことがきっかけで病院へ。ADHDと診断され、カウンセリングを受けるなどした。今では症状を受け止め、「無理しすぎない」と自分に言い聞かせ、ADHDと上手につき合えるようになったという。平成14年に当事者グループを立ち上げ、さらに20年にはNPO法人「発達障害をもつ大人の会」(大阪市中央区)を設立、代表として活動も続けている。
教室でじっとできず、先生の話を聞くことが難しい、などの症状が出る学童期のADHDは、アメリカでは1970年代から活発に研究が行われてきた。日本でも90年代から注目されるようになったが「大人のADHD」は見過ごされてきた。
「他人とうまくいかないのは、発達障害だから?」などの本がある「きょうこころのクリニック」(奈良市)院長で精神科医の姜(きょう)昌勲(まさのり)さんは「ここ数年、大人からの相談件数は増えています。その多くは企業の産業医を通じて紹介されたものです」と話す。
ミスが多く批判にさらされて落ち込むことが増え、うつ症状になって受診したり、データなどの管理ができず仕事に支障が出たため上司が相談するケースも。
姜さんは、物忘れを防ぐには、携帯電話のタイマー機能や、インターネット上のメモ機能を活用することを勧めている。また、「ADHDの同僚や部下にどう接したらいいかわからない」という企業側には、まず、疾患と理解するようアドバイス。その上で「仕事の進捗(しんちょく)状況を細かくチェック」「指示は紙に書くなどして“見える化”する」「一度に複数の仕事を与えない」「こまめにほめる」といった対処法をアドバイスしている。
「発達障害の人に対する対処の仕方は、すべての人に応用できる。このやり方で仕事を進めればモチベーションが向上し会社の生産性もあがるはずです」
米製薬会社「イーライリリー」は一昨年、日米欧豪の18歳から64歳を対象にしたADHDに関する調査を行った。ADHDと診断された人のうち、うつ症状を合わせて持つ人は日本は諸外国に比べて約10ポイント多い61%。「仕事において思うような評価がされなかった」と答えた人が日本では90%にものぼり、米に比べて1・5倍多かった。
ADHD研究の第一人者で米サウスカロライナ医科大のラッセル・バークレー教授は「アメリカではADHD患者が有効な治療や支援を受けられずに生じる労働力損失や、患者の症状に起因した自動車事故などによる経済損失が1000億ドルにものぼると考えられており、行政サポートや患者をサポートするコーチの育成が進んでいます」と話す。「日本でもADHDへの理解が深まってほしい」と期待している。
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