ものを記憶し、考え、周囲とコミュニケーションをとるのが難しくなる認知症。社会の高齢化に伴い、特にアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)の患者が急増している。糖尿病の増加がその一因で、アルツハイマー病と糖尿病には共通点も多い。糖尿病を防ぐことは、認知症の予防にもつながる。
福岡市に隣接する人口約8400人の久山町。九州大が1961年から続けている住民の追跡調査で、認知症の急増が裏付けられた。2012年には65歳以上の認知症の割合は17・9%。この数字から全国の認知症高齢者数を推計すると550万人で、20年前の6倍になった。アルツハイマー病はその69%を占める。
久山町の調査で、糖尿病の患者はアルツハイマー病のリスクが2・1倍だった。40歳以上の住民で、糖尿病などの糖代謝異常の割合は大幅に増えており、アルツハイマー病が急増した原因と考えられている。
アルツハイマー病と糖尿病の共通点も、久山町の調査で浮かび上がってきた。
九州大主幹教授(脳機能制御学)の中別府雄作さんらが、亡くなった住民88人の脳を調べたところ、アルツハイマー病の患者では、記憶をつかさどる海馬で1387個の遺伝子の働きに、特徴的な変化があることがわかった。その中には、インスリンを作ったり利用したりするのに必要な複数の遺伝子が含まれ、働きが大幅に低下していた。アルツハイマー病の原因となるアミロイドβと呼ばれる異常なたんぱく質の蓄積が、その引き金にもなっているらしい。
インスリンは、糖を細胞に取り込んで、エネルギーとして利用するのに必要なホルモン。インスリンが作れなかったり(1型)、上手に利用できなかったり(2型)するのが糖尿病だ。インスリンは主に膵臓すいぞうで作られるが、脳でも少し作られ、糖を取り込み、神経細胞を保護している。
中別府さんは「アルツハイマー病は『第三の糖尿病』とも言える。患者の脳は糖を十分に利用できず、様々なストレスに弱くなっている。このような状況で糖尿病を発症すると、ストレスが増え、アルツハイマー病がさらに進行する悪循環に陥る」と説明する。
糖尿病は、アルツハイマー病だけでなく、認知症を複合的に悪化させる。糖尿病は血管を傷め、脳の血管が詰まることなどで発症する脳血管性認知症のリスクを高める。糖尿病で血糖値が高いと集中力や注意力が落ちる。
東京医大教授(高齢診療科)の羽生春夫さんは「糖尿病は、合わせ技で悪さをする。糖尿病の患者では、認知機能の余力が失われているため、病変が進んでいない初期から認知症の症状が出る。40、50歳代から生活習慣に気を付け、糖尿病を防ぐのが、認知症の予防にも重要」と強調する。
インスリンの効き目を良くし、糖尿病を予防する最も簡単な方法として、羽生さんは運動を勧める。久山町の調査でも、運動や、和食と乳製品を中心とした食事が、糖尿病だけでなく認知症のリスクを減らすことがわかっている。
順天堂大特任教授(代謝内科)の河盛隆造さんは「糖尿病は放置せず、早期に治療するのが大切。どんな治療が認知症の予防に効果的か、検証する必要がある」と話す。(杉森純)
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