東京電力の広瀬直己社長と16日に会談した泉田知事は、県技術委員会が進める福島第一原子力発電所事故の検証について、東電側からの説明が不足していると不満を述べ、検証への協力を強く要請した。広瀬社長は協力を確約したが、知事が柏崎刈羽原発の再稼働議論の前に必要だとする事故の検証はいつ区切りを迎えるのか、依然不透明なままだ。
「県に全く協議がないまま計画が申請され、残念。このスキーム(計画)は見直してほしい」
県庁を訪れ、東電の新しい総合特別事業計画(再建計画)を説明した広瀬社長に対し、知事はこう言い放った。計画には柏崎刈羽原発の今年7月の再稼働が盛り込まれており、強く東電側をけん制した格好だ。
続けざまに知事は、「なぜ2か月もメルトダウン(炉心溶融)を隠したのか」と、県技術委で検証を続けている福島第一原発事故についても質問。「ちゃんと説明してもらっていない。真摯(しんし)な対応をお願いする」といらだちを見せた。
会談時間の半分近くは検証に関する話に費やされ、広瀬社長は最後、「我々から出せるものは全部出して事故の検証をしていきたい」と引き取り、会談は予定を5分ほど上回る約20分間で終わった。
県技術委の検証は3月に一定のめどを付けて議論をとりまとめる予定だが、個々の議論には時間がかかっている。知事は会談後、記者団に対し、「少し本気でやってもらえるかもしれないと感じた」と述べた。
一方、広瀬社長は同日午前、柏崎刈羽原発が立地する柏崎市と刈羽村も訪れ、計画を説明した。
柏崎市の会田洋市長は表立って批判はしなかったものの、「東電が継続して赤字を出さない条件作りのための計画」と指摘。東電が前提とする7月の再稼働については、「仮置きという言葉があったので、そのように理解している。(7月に再稼働できるかどうかは)半信半疑だ」と語った。
刈羽村の品田宏夫村長は「東電が民間事業者としてやっていくという決意がみなぎっている」と計画を評価。「計画が『絵に描いた餅』にならないようにしっかりと対応してほしい。我々も出来る限りの協力はしたい」と激励した。
◆泉田知事と東電・広瀬直己社長の主なやりとりは次の通り(敬称略)。
広瀬 新しい総合特別事業計画での柏崎刈羽原発の再稼働は「仮置き」だ。再稼働の計画ではない。
泉田 県に全く協議がないまま計画が申請され、残念。株主や金融機関の責任を棚上げしたモラルハザード(倫理の欠如)の計画だ。安全面で東電が変わったと受け止めるのは難しい。
広瀬 安全優先でこれからも進めていく。
泉田 再稼働に向けた圧力が金融機関からかかるのではないか。
広瀬 圧力はない。
泉田 このスキーム(計画)は見直してほしい。ところで、なぜ(福島第一原発事故で)2か月もメルトダウンを隠したのか。
広瀬 発表について国との調整の必要があった。
泉田 色んな圧力がかかると真実を話さない会社だ、ということになる。
広瀬 我々にも非がある。改めなければならない。
泉田 県技術委員会で真摯な対応をお願いする。
広瀬 我々から出せるものは全部出して事故の検証をしていきたい。
◆トップ会談で信頼高めよ
泉田知事と広瀬直己東京電力社長の16日の会談は、知事が広瀬社長を糾弾した昨年7月の会談と比べて落ち着いた雰囲気だったが、相変わらず随所で受け答えがちぐはぐで、東電の新しい再建計画を巡る認識では最後まで平行線だった。
県と東電は共に、柏崎刈羽原発の再稼働に向けた最大の焦点は「福島第一原発事故の検証・総括」(知事)だと認識しているはずなのに、連携はうまく図れていないように見える。
もちろん、少しずつだが、かみ合う部分も出始めている。知事はこの日、広瀬社長がメルトダウンの公表が遅れた要因に言及したことを一定評価した。トップ会談を重ねた成果だろう。
広瀬社長にとって今年は、再稼働に向けた正念場だ。一方、来年春の県議選を前にして、知事も、再稼働に賛否を抱える県議たちを念頭に、どのような政治的決断を下すかが問われる。
トップ同士でぎこちなくも動き始める関係。それを止めないよう、組織レベルでも連携を密にし、県民の安全・安心に向けて信頼感を高め合うことが必要だ。(米川丈士)