「ブラック系」と評されるような人物であっても、学ぶべきことがないわけではありません。ライフハッカーでは先日、「歴史上の悪名高い人々が残した10の名言」を取り上げましたが、財界に目を向けても同じこと。一部では忌み嫌われていても、巨万の富を築いた人物にはそれなりのノウハウがあるはずです。このような立場から、今回はブラック系大富豪の蓄財術のうち、私たち一般人にも役立ちそうなものを紹介します。ただし「マネーロンダリングの方法」などは取り上げませんよ!
ここで取り上げる人々は、巨万の富を手にリッチな生活を謳歌していて、そこに至るまでには何かしら、ブラック系と呼ばれても仕方のないことをしてきたのは間違いありません(「ブラック系」の定義にも議論の余地はあるでしょうが)。けれどもここでは、取り上げる人物への倫理的評価は棚上げにします。ともかくは、その発言を傾聴し、学ぶべき点は大いに吸収しましょう。
何者かになるのは、何かをするのと同じくらい大切
独裁者にはさまざまな戦術が必要でしたが、大富豪になるにも、お金の稼ぎ方以外にさまざまなノウハウが必要です。「達成していなくても、しているフリをしろ」(Fake it till you make it)は常識。預金の残高が怪しい時でも、うまくいっているフリをすべきです。異論はあるでしょうが、不動産王のドナルド・トランプ氏に学ぶならば、そうなります。
トランプ氏の思想の根幹は、「何者かになる」のは「何かをする」よりも大切…とまで言ったら言いすぎでしょうが、少なくとも同じくらいには大切ということです。金銭的な成功はそれほど難しいことではありませんが、可能だと信じなくては実現しません。個人の資産を増やすには、小銭を貯金箱に入れるだけではダメ。突き詰めれば、一番大事なのは、未来について考えることです。というのも、ひとかどの人物になって尊敬と信頼を勝ち得れば、お金はずっと簡単に手に入るからです。
ライターのスティーブ・シーボルド氏がトランプ氏について書いていることを、米ビジネス系メディア「Business Insider」から孫引きで紹介します。
「ドナルド・トランプ氏は、いったん大富豪になってから、90億ドルの負債を抱えるまでに転落しましたが、そこからカムバックし、以前よりも資産を増やしています。それを可能にしたのが、この(何者かになるのは、何かをするのと同じくらい大切だという)考え方です」とシーボルド氏は書いています。
「一般人は、何かをすることにこだわり、行動からすぐに結果を得ようとします。これに対して、『ビッグな人』たちは、成功であれ失敗であれ、あらゆる経験から学んで成長します。それらの経験の究極の意義は、自分を、目覚ましい成果をあげられる「成功マシーン」へと成長させてくれることだと心得ているのです」
トランプ氏自身、こうしたことを何度も口にしています。また、資産を増やすのと成功はセットになっている、なぜならどちらもマインドセットに関わる問題だからだ、とも述べています。ひとたび金銭的に成功すれば、次からはもっと簡単に成功できるようになります。トランプ氏にとっての成功は不動産や不労所得ですが、対象が何であれ同じです。ひとつ気をつけたいのは、目先の失敗にあまり神経を尖らせないことです。
投資はインデックスファンドに
ブラック度の高い大富豪のほとんどは、パーソナルファイナンスにおける細かな問題にまで首を突っ込む時間的余裕はなさそうです(この分野で本を出す人もいますが)。ところが、元ナスダック会長のバーナード・マドフ氏は、史上最大級の投資詐欺事件の犯人として収監されてからというもの、時間を持て余しているようで、耳を傾ける者には惜しみなくアドバイスを提供しています。マドフ氏が米紙『ウォールストリートジャーナル』の「MarketWatch」コーナーのインタビューで披露した投資アドバイスは、意外にも、とても堅実なものでした。
一般の投資家がお金をつぎ込むのに最も確実なのはインデックスファンドです。安い手数料でプロの管理を受けられるインデックスファンドがあります。これらは最も安全な選択肢で、詐欺にあうこともまずないでしょう。
投資家向け詐欺の方法を熟知しているマドフ氏が言うのですから、このアドバイスは傾聴に値します。米Lifehackerでは以前にも投資を始めるにはインデックスファンドが良いというアドバイスを紹介しています。最初に必要な費用が少なくて済むからです。ブルームバーグもマドフ氏のインタビューを取り上げて、インデックスファンドがうまくいく理由をわかりやすく解説しています。
思いもよらないことですが、マドフ氏は大部分の投資家にとって適切なメッセージを伝えています。インデックス投資信託やETF(上場投資信託)は、ヘッジファンドに比べるとSEC(アメリカ証券取引委員会)の監視がはるかに行き届いています。インデックスファンドでは、過去の記録を見てもインサイダー取引や詐欺事件がほとんどありません(後略)。
インデックス投資信託やETFは、アクティブ型の投資信託に比べて投資対象を分散させて調整しており、低コストで良い成果を上げています。だから、基本的な投資はインデックス投資信託かETFで行うのが、一般的な投資家にとっては最高の安全策と言えます。オンライン掲示板「Bogleheads.org」の利用者の投稿でも、「学者と詐欺師の意見が一致しているのだから、たぶん良いものだろう」と書かれています。
投資に興味があるのなら、米Lifehackerではこれまでに、あまりリスクを負わずに投資を始める方法をいくつも紹介しています。また、マドフ氏のアドバイスに従ってインデックスファンドを始めるつもりなら、メリットとデメリットをまとめた米誌『フォーブス』のこの記事は見逃せません。インデックスファンドの中からベストな選択肢を選ぶには、「MSN Money」に、さまざまなタイプのファンドに対応したアドバイスが載っています。
結婚の前に婚前契約を
メディア王のルパート・マードック氏も、長年にわたって毀誉褒貶にさらされてきました。どんな政治的立場の人物であれ、マードック氏を好きという人はまずいないでしょう。英ニューズ・インターナショナルの電話盗聴スキャンダルの1件だけでも、信用に値する人物とは思えません。それに、弱者に優しいタイプではないことも、公式Twitterアカウントでのこの発言を見れば明らかです。
とはいえマードック氏は、お金の扱い方については熟知しています。また3度の結婚経験から、婚前契約の重要性も学んだようです(米Lifehackerのこの記事に寄せられたコメントの中でも、同じことが指摘されています)。
マードック氏は(たぶん)私たちよりはるかに多くの資産を持っているので、婚前契約も私たち一般人の場合に比べてはるかに複雑なのでしょう。とはいえ、結婚前にマードック氏と同じ段階を踏むことは、私たちにとっても無意味なわけではありません。
ファイナンス専門家も弁護士も、それぞれの立場から婚前契約の重要性を説いています。婚前契約の主目的は、単に受け取るべきものを受け取れるようにすることではありません。離婚の際のお金の問題は、たいていドツボに落ち込み、何から何まで不愉快なことになりがち。それを少しでもラクにするのが真の目的です。
米ABCニュースでは、パーソナルファイナンスの専門家であるMellody Hobson氏に話を聞いて、婚前契約を交わすカップルが増えている理由を次のようにまとめています。
Hobson氏によれば、増加にはいくつかの理由があります。まずは50%という離婚率。結婚の時点で借金のある人は少なくありませんが、相手にしてみれば、婚姻関係が終了した後にまでその尻拭いをさせられることがないよう、自衛策を取りたくもなるでしょう。また、現代では働く女性が増えており、女性の側にも自分の資産を守りたいという意識がある、とHobson氏は指摘します。
婚前契約の内容はお金のことだけに限りません。婚姻期間中の「夜のデート」のノルマを決めておく場合もあるし、離婚の際にどちらがペットを引き取るか決めておく場合もあります。死亡時の遺産の取り扱いについての条項を加えることもできるのだそうです。
Hobson氏の意見では、たいていの場合は婚前契約を交わすのが望ましいそうです。またHobson氏は、最近のハリス世論調査の結果を紹介してくれました。それによると、独身者の44%、離婚経験者の49%が、婚前契約を望ましいものと考えており、離婚経験者の15%は、婚前契約を交わしていなかったことを後悔しているそうです。
もちろん、こういった問題は人それぞれなので、自分で結論を出せば良いことです。ただここで主張したいのは、マードック氏ほどの財産を持っていないからと言って、婚前契約を交わさない理由にはならないということです。
お金に関する決断は慎重に
投資ファンド運用大手ブラックストーン・グループのCEO、スティーブ・シュワルツマン氏は、個人資産65億ドルとも噂されます。米誌『ニューヨーカー』はかつてシュワルツマン氏を「悪党」(villain)と評したことがあります。
シュワルツマン氏は、富裕層を対象とした増税をヒトラーのポーランド侵攻にたとえたり、美食のためにとんでもない額をつぎ込んだりといった言動がよくネタにされるものの、この記事で取り上げた大富豪たちの中では、ブラック度は低めかもしれません。とはいえ、大金持ちでその使い方を心得た人物なのは確かです。そんなシュワルツマン氏の方針は「頭を冷やして、決断をできるだけ遅らせる」です。
商取引に関して意思決定をすぐ行わなければならないのにどうして良いかわからない時は、どうにかして決定を先延ばしできるようにします。判断する前にもっと情報が必要だと主張してみるのです。
人材についても同じアプローチを取っています。例えば以前、ロング・ショートのヘッジファンドを始めるのに新しくマネジャーが必要になった時は、面接に1年半かけました。タイミングは熟していて、行動を起こさないと負けるという局面でした。膨大な時間と労力を費やしましたが、満足のいく若い投資マネジャーが見つかりました。彼は今ではブラックストーンにとって貴重な資産となっています。
毎年新入社員に向けて、この教訓を自分の言葉で伝えています。「学校では、すぐに手を上げて発言するだけで評価されるけれど、ここでは違う。ここで求められるのは満点の回答だけだ」と語るのです。締切も重要ですが、締切を守るためのサポートは、ブラックストーンではいくらでも受けられます。決断を下す前に、どうにかして少しでもより十分に検討できるよう、全社を挙げて取り組んでいるのです。なぜそうするかというと、「試合のために一番準備を重ねてきた者が勝つ」というスポーツの真理は、商取引にも当てはまるからです。
米Lifehackerではこれまで、意思決定スキルを向上させる方法をいくつも取り上げてきました。予想されるよりもずっと難しいからです。シュワルツマン氏がここで話題にしているようなケースの意思決定は、資産にも大きく影響するので、時間をかけてあらゆる観点から考えるだけの価値があります。私たちの場合も、お金に関する残念な意思決定につながりがちな心理的バイアス(偏り)を正すには、たっぷり時間をかけるのが得策です。
努力せよ
イタリアの元首相、シルヴィオ・ベルルスコーニ氏は、複数の報道機関やスポーツチームを有する実業家でもあります。数多くのスキャンダルで知られ、脱税で有罪判決を受けました。それだけのことをしても、『フォーブス』の世界長者番付には毎年掲載されているし、政界引退の後も引き続き、数多くのインタビューに応じて資産運用のアドバイスをしています。
ベルルスコーニ氏のアドバイスは、煎じ詰めればいつも同じところに辿りつきます。「怠けるな」です。首相在任当時に低所得者層への支援について聞かれたベルルスコーニ氏はこう答えました。
「ビジネスマンとしてのベルルスコーニの答えはひとつ。手を休めず、もっと稼ぐ努力をするべし、だ」。
この回答は当然かなり批判されましたが、それ自体はさほど目新しい言葉でもありません。米Lifehackerは以前の記事でも、支出を減らすより、収入を増やすことを考えようと提唱し、不労所得を得るのは難しくないと指摘したり、始めることがすべてだと鼓舞したりしてきました。ベルルスコーニ氏の発言はやや軽率で、もう少し言葉を選ぶべきだったかもしれませんが、本質的には同じことを言っています。資産を増やしたいなら、何かが起こるのをただボーッと待っているだけではダメ。目標実現に必要な努力は、何だってしなくてはいけないのです(だからと言って、脱税はお勧めしませんよ)。
いろいろ書きましたが、ブラック系大富豪と言っても、蓄財の方法は、普通の大富豪とそれほど変わりません。鍵を握るのは、投資、努力、ひらめき、そしてリスクを負う勇気です。時としてちょっとした脱税が役に立つ場合もあるのでしょうが、それは、彼らの蓄財方法の本質ではないのです。
Thorin Klosowski(原文/訳:江藤千夏/ガリレオ)
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