旧来の学歴ブランドが崩れている。ソフトバンク、三菱重工、日本HPの採用責任者は、学生に何を求めているか。
■新卒学生に要求されること
APUや国際教養大学が脚光を浴びているために、いかにもグローバル素養だけを企業が求めているかのようだが、じつはそうではない。企業が求める学生の資質・能力は少なくともこの10年間で大きく変化している。かつて80年代から90年代に企業が求めた要件としては「調整力」「協調性」「業務処理能力」といった言葉が挙がったものだ。
もちろん今でも必要な能力には違いないが、当時とは明らかにビジネス環境が変化している。少子高齢化に伴う国内市場の収縮に加え、輸出すれば儲かるという商品力優位の輸出モデルの時代は終焉した。大手電機メーカーの人事担当者は「ビジネスのグローバルレベルでの競争の激化とスピード化、業種の垣根を越えたビジネスの高度化・複雑化が進行し、過去の経験や価値観だけでは通用しない」時代に入ったと指摘する。
ではこうした時代にふさわしい学生の資質・能力とは何か。筆者はこの3年間で80社におよぶ大手企業の採用戦略を取材してきたが、表現は異なるが、企業の求めるポテンシャルを分類すれば、以下の6点に集約されるだろう。
(1)変革する力、バイタリティ
(2)共感力、チーム志向
(3)論理的思考、伝える力
(4)周囲を巻き込む力、リーダーシップ
(5)主体的に行動する力
(6)グローバル素養
一見、意外性がないように見えるが、多くの人事担当者に言わせれば、こうした資質を欠く学生がじつに多く、稀少価値的存在なのだという。また、これを見ればわかるように各能力は相互に連関しており、APUの学生の人気の秘密は、単に異文化受容力だけではなく、チャレンジ精神やコミュニケーション能力などとも関係づけて採用につながっていると推測できる。
もちろんこうした能力は、付け焼き刃的就職テクニックで身につくものではない。入学時からのしっかりとした教育が大きな鍵を握る。それをまさに実践しているのが立教大学経営学部だ。06年に経営学科と国際経営学科の2つの学科を擁して創設されたばかりで歴史はまだ浅いが、10年に第1期生を送り出して以降、就職率はほぼ100%を達成した。
松本茂経営学部国際経営学科教授は「立教大学の学部の中では、就職率、また大企業への就職率ともにトップの実績を誇っている。とくに女性の総合職採用比率は高い」と語る。実際に銀行、証券会社をはじめ総合商社やメーカーなど大手企業に多数就職している。
経営学部の教育を象徴するのが、初年次から実施されるBLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)と呼ぶ産学連携による課題解決型プロジェクトだ。1年生385人を1チーム4~5人の計90チームに編成。企業から与えられたビジネス課題を解決するために各チームが知恵を絞り、半年間かけて成果を競うというものだ。予選を勝ち抜いた5チームが課題を提供した企業の役員の前でプレゼンテーションを行う仕組みだ。
2012年の課題提供企業は日本ヒューレット・パッカード(HP)である。8月2日、東京都江東区にある本社の会議室で開催されたプレゼンを見学した。課題は「リアルストア出店計画を日本HPに提案する」。1年生ながら、本社の副社長をはじめ役員や社員が居並ぶ前での堂々としたプレゼンぶりには驚かされた。
内容的にも事前の調査によるテーマの絞り込み、パワーポイントを駆使したわかりやすい説明に加え、出店に要する予算や投資効果を盛り込むことも忘れないなど見事な出来映えといってよかった。また、学生の説明に細大漏らさず耳を傾け、食い入るように見つめていた日本HPの役員陣の姿がとくに印象的だった。
今回のプレゼンは前期の「リーダーシップ入門」の授業の一環であるが、後期は論理的思考力を養うディベートを実施。さらに2年次、3年次も同様の産学連携のプロジェクトを通じてリーダーシップ力をブラッシュアップしていく。
「最大の狙いはリーダーシップの育成にありますが、我々は権限のないリーダーシップという言い方をしています。部長、課長という権限がなくても、自分の強みや個性を生かしたリーダーシップを発揮するのが我々の目指しているリーダーシップです。グループワークを通じてお互いを評価しながら、自分なりのリーダーシップ像を考え、それを身につけていくことを狙っています」(松本教授)
http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/president_10893.html