気象庁の検討会が「異常気象」だったと認めるこの夏の猛暑。後に振り返ったときに、ネットスーパーが定着するきっかけになったと位置づけられるかもしれない。
インターネットで注文を受け付け、近くの店舗から個人宅に配送するネットスーパーは、当日注文、当日配送が基本で生鮮食品も扱っているのが特徴。利用者は20~40歳の女性が中心だ。
今年の夏は猛暑による外出控えが追い風となり、各社とも売上高が急増した。イオングループの中核企業、イオンリテールは7~8月の販売額(既存店ベース)が前年同期比で5割増。ダイエーも配送件数ベースで4割増となった。イトーヨーカ堂もお盆シーズンの2週間で前年同期比5割増の伸び。地方スーパーでも、大阪地盤のイズミヤが7~8月で前年同期比2割増となった。
ケース買いが目立ったビール、お茶などネットスーパーの売れ筋である重くかさばる商品がよく売れたほか、店から家に帰る際に溶けるのを避けるなどの理由で冷菓や冷凍食品も販売量が増えた。さらには小型扇風機のような食品以外のヒット商品もあったという。
大手スーパー各社がネットスーパーを本格的に開始したのは2000年代後半。12年度の市場規模は推定1000億円台前半まで成長しており、今夏の猛暑を追い風にさらに拡大しそうだ。
利用者の裾野も広がっている。イオンリテールでは8月末の会員数が今年2月末から2割増えた。会員が拡大したのは他社も同様。ネットスーパーは固定費が重く、これまで大半の企業が赤字に苦しんできたが、このままのペースで拡大が続けば、黒字化も見えてくる。
ただし、潜在的な課題が解消されたわけではない。これまで成長のハードルとなってきたのが不安定な稼働率だ。
■ 悪天候日に注文集中
スーパーの既存顧客は生鮮食品をはじめとして店舗で実際に商品を見て買うことを好む。ネットスーパーの注文数がハネ上がるのは、猛暑、台風など店舗へ行くのが難しい天候のときが多い。
配送拠点となる各店舗は、ネットスーパーのために、注文された品の収集や梱包をする人員、個人宅へ配送するためのトラックなどを事前に確保しておく必要がある。体制を悪天候の注文ピーク時に合わせれば、平時の稼働率が低下し収益を圧迫する。逆に平時に合わせれば、悪天候時に注文を断る事態も起こりかねず、信用低下による先々の注文数の減少を招くおそれがある。
今夏に関しては、「夏前から店舗によって作業場を拡大したり、人員面でも応援体制を強化し、大半の店舗で1日300~400件、最大で500件程度の注文をこなせる体制にしていた」(ヨーカ堂)、「人員配置など店舗の作業効率を高めた」(イオンリテール)など、事業拡大を狙う施策によって注文を断るケースは最小限に抑えられた。
だが、せっかく体制を強化しているにもかかわらず、秋以降は天候が安定し注文数が伸び悩めば、採算は大きく悪化しかねない。「黒字化のメドは立った」(イオンリテール)、「今後は商品数を拡大させ充実化を図っていく」(ダイエー)と、各社とも事業拡大に前向きだが、今後の成長には、さらなる能力拡大や稼働率向上が前提となる。
それには顧客数や注文数の安定的拡大が不可欠であり、都市部に比べ遅れている地方での展開やシニア層の開拓など新規顧客層の拡大も必要だ。何より今夏に向上したネットスーパーの認知度を、いかに今後の売上高につなげていけるかが、大きなカギになる。
(週刊東洋経済2013年9月14日号)
石川 正樹
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130914-00019428-toyo-bus_all