医療現場でも使われ始めた「うまみ」の力
2002年、味を感じる舌の細胞にうまみ物質のグルタミン酸を特異的に受け止める受容体があることが判明。
うまみは甘み、酸味、塩み、苦みに続く“第5の味覚”として
世界的に認められるように。最近はうまみの健康作用が医療現場でも活用されている。
唾液(だえき)が減って口の中が乾燥するドライマウスの患者は、全国に約800万人。東北大学大学院歯学研究科の笹野高嗣教授は、このドライマウスの治療にうまみを役立てている。
「唾液の分泌を増やすには、レモンなどの酸味が有効だが、乾いて荒れた口腔内には刺激が強すぎる。その点、うまみは口当たりがマイルドなだけでなく、唾液の分泌量も持続時間も酸味より格段に優れていることが分かった」(笹野教授)
下のグラフは、味覚刺激による唾液量を調べたもの。酸味を口にすると唾液は一気に増えるが、分泌時間はあまり長続きしない。一方、うまみ(グルタミン酸)では22分たっても分泌量の多い状態が続いている。
「うまみが舌の味蕾(みらい)細胞で味覚として感知されると、唾液反射が起こる。酸味は早く消えるが、うまみは後味が残るので、唾液反射が長く続くのだろう。うまみは唾液を増やす効果的なスイッチといえる」と笹野教授。
唾液分泌には、唾液を大量に出す「大唾液腺」と口腔粘膜に広く分布して粘り気のある唾液を出す「小唾液腺」がある。ドライマウス改善には小唾液腺の分泌がより重要で、うまみはこれを強く促すという。
そこでドライマウスの治療法として笹野教授が患者に薦めているのが、うまみ物質グルタミン酸が豊富な昆布茶だ。塩分のとり過ぎにならないよう通常の3倍程度に薄め、30秒ほど口に含む。「これを毎日3回程度続けていると、約8割の患者で口の乾きが改善する。薬のような副作用もなく、安全に手軽に治療できる」と笹野教授は話す。
うまみの医療への活用はドライマウスだけにとどまらない。うまみ受容体は消化管にもあり、うまみ物質が胃に入ると消化吸収が促進される。そこで流動食にうまみ物質を添加し、胃もたれなどを改善させる試みも。また、抗がん剤などの副作用で味覚が鈍くなった患者に、うまみ強化食を提供する医療機関もある。うまみの健康効果に期待大だ。
うまみが分からないと、おいしくない。
唾液が減って「うまみ障害」に
味は分かるが、おいしくない。その結果、食欲が低下し、やせてしまう……。高齢者には、うまみだけが分からない「うまみ障害」が多いという。「甘み、塩み、酸味、苦みの4味は分かっても、うまみが感じられないため、おいしいと思えない。これは唾液が減って、うまみ物質が味蕾細胞に運ばれなくなることが大きな原因。唾液が増やすと、うまみが分かるようになり、食欲も回復。体重も増えて健康を取り戻す人が多い」と笹野教授は話す。
東北大学大学院歯学研究科
味覚障害の診断のための「うまみ検査法」の開発にも取り組む。「高齢者を対象にした調査では、約3人に1人が味覚障害で、唾液の減少が主な原因でした」。
日経ウーマンオンライン
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