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警察が動かざるをえない通報の仕方

■治安や危険性など、動く「理由」を訴えよ

騒音や悪臭をまき散らす隣人や、路上駐車、ストーカーといったトラブルは、解決が難しい問題のひとつ。弁護士の高橋裕次郎氏は、特有の難しさについてこう語る。

「この手のトラブルには、まず法的な問題なのか否かという判断が必要です。暴力行為などが伴わないと、民事的な問題としては捉えやすいのですが、刑事的な問題としては、事件化するには難しい場合もあります」

たとえば隣人が弾くピアノの音が耐え難い場合、隣人の行為は、民法上の不法行為となる可能性がある。しかし、ピアノの音が受忍の限度を超えているかどうかの判断は、微妙だ。

「裁判所に訴えるためには、ピアノの音が受忍限度を超えていることを立証する必要があります。また、どのような実害が発生したかの立証も必要です」(高橋氏)

被害の立証には専門家に意見書を書いてもらうのが有効だが、これが難しい。近隣トラブルやストーカー被害の解決が専門の平塚俊樹氏は、こう語る。

「騒音測定の専門業者は存在しますが、彼らが相手にするのは建設会社などの法人。個人は相手にしません。また、実害の立証には騒音と精神疾患などの因果関係を明記した診断書が必要ですが、かかりつけの医者でもない限り、そんな診断書は書いてくれません」

では、泣き寝入りするしかないのだろうか。平塚氏が言う。

「実は、近隣トラブルの場合、法的な解決を求めるのは最悪の選択です」

平塚氏によれば、被害者の90%以上が法的な解決を目指すが、そのほとんどが挫折してしまうという。しかも、事を荒立てた結果として……。

「法律以外の方法で相手から報復を受けるケースが多く、下手をすれば刺されます。なるべく、相手の恨みを買わない落としどころを模索すべきです」

この点は、高橋氏も同意見だ。

「過剰に挑発的な態度に出ることは禁物。相手との直接的なやり取りはなるべく避け、弁護士などを代理人に立てて交渉に当たらせるべきでしょう」

恨みを買わずに解決するために最も重要なポイントは、相手を立てることと平塚氏は言う。

「ピアノを弾きたいお気持ちはわかります」と、まずは相手の気持ちを尊重し、そのうえで「なんとか配慮してもらえないでしょうか」とお願いする。

「日本の社会常識や法律の根底には、弱者救済の思想がある。この国では自分を弱く見せたほうが得をするのです。法律を振りかざし理屈で相手を責め立てる姿は、いかにも強い。日本社会では反感を買ってしまいます」

願いが聞き入れられないなら、多数派工作をするしかない。マンションの住人なら管理組合に訴え、戸建てなら自治会に訴える。周囲の住民の大半を味方につけてしまえば、相手は要求を呑むか、転居せざるをえなくなる。

一方、ストーカー被害の場合は、警察が動きやすい環境をつくってやることがポイントになる。警察は行政サービスを行う機関のひとつ。警察が動くことで被害者の不倫行為などが周囲に知られ、被害者本人からクレームがきたりすると、担当者の人事評価に大きな×がつく。

桶川ストーカー事件以降、民事不介入の姿勢を改めたとは言うものの、被害者のプライバシーが傷つきやすいストーカー事件に対して警察が慎重であることに変わりはない。先日も、警察に再三相談していたにもかかわらず、被害者の女性が殺害されてしまう事件があったばかりだ。

「理想的なのは、加害者の妻や家族を説得して、夫を、息子を止めてほしいと警察に訴えさせることです。加害者サイドからの訴えなら、警察は動きやすい。近隣トラブルにせよ、ストーカー被害にせよ、単身で法律に訴えるのが最も危険な方法であることを肝に銘じておくべきでしょう」(平塚氏)

相手が明らかな異常者だった場合は、「引っ越してしまうのも選択肢の1つ」だと、両氏は口を揃える。法をかざして闘うよりも、逃げるが勝ち。命を守る知恵である。

http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/offices/president_9805.html

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