高齢になり若いときほど食欲がない。一人暮らしで料理がおっくうになり、つい、残り物やパンですませてしまう。高カロリーを気にして必要以上に食事を制限している-そんな高齢者たちの「低栄養」が近年、問題になっている。低栄養は免疫力の低下を招き、病気にもかかりやすくなるだけに、「肉や卵などの動物性タンパク質をきちんと取りバランスの取れた食事をしてほしい」と専門家は呼びかけている。(横山由紀子、写真も)
■野菜は取れているが…
2年前から一人暮らしをしている大阪市内の女性(70)。2月のある日のメニューは、朝食に「生野菜のサラダ」「コンブ巻き」、昼食はパン、夕食には「焼いた鶏肉」「キノコのサラダ」。「食が細くなり、1人だと料理が面倒くさくなって残り物や菓子パンで済ませることが増えた。健康を考えて炭水化物は太るからご飯はあまり炊かず、牛肉の場合は脂分の少ない赤身を選ぶようにしている」と女性は話す。
このメニューを見た大阪国際大学短期大学部講師で、健康栄養支援センター(大阪市東成区)の高齢者栄養部長、大原栄二さんは、「野菜は取れているが、タンパク質が少なく、炭水化物などの糖質が取れていない。今は大丈夫でも、このままでは摂取エネルギーが足りずに元気がなくなってくる」と心配する。
管理栄養士でもある大原さんは、高齢者の自宅を訪ね、献立作りなどのアドバイスをする訪問食事栄養指導を行っている。「訪問先の高齢者のほとんどが、必要な量の栄養素、特にタンパク質とエネルギーが欠乏している低栄養の状態」だという。
■「粗食=健康」ではない
カロリーを気にして、肉や卵などの動物性タンパク質を控える。粗食こそが体にいいという考えをもつ人も多い。一人暮らしだと料理をきちんと作らなくなる。「肉や魚などの動物性タンパク質のほか、脂質やコレステロールも大切な栄養素。高齢になると消費エネルギーは少なくなるが、タンパク質やビタミン・ミネラルなどの必要量は変わらないのできちんと摂取してほしい」(大原さん)
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によると、70歳以上の健康な高齢者(活動レベルが普通)のエネルギー摂取量は、男性が2200キロカロリー、女性が1700キロカロリー。栄養素の摂取量は、5年ごとに見直しが行われており、平成21年の見直しでは、エネルギーは男性が350キロカロリー、女性は150キロカロリー、それぞれ引き上げられた。また総脂質も男女とも15以上25%未満から20以上25%未満とアップ。
■高齢者も食べやすく
兵庫県尼崎市の住宅型有料老人ホーム「グッドタイムリビング尼崎新都心」では、平均年齢85歳という入居者の食事に、肉や魚の食材を充実させた献立を組んでいる。昼食と夕食には肉料理か魚料理をメーンに。広報担当の吉田陽子さんは「肉は煮込んで柔らかくしたり味付けを薄くするなど、食べやすくしています。嚥下(えんげ)障害がある場合には、食材をつぶした上で肉や魚の形に形成したソフト食の提供もできるよう、見た目にも食欲をそそる工夫を心がけています」。入居者からも、「肉はあまり食べなかったけれどここに来てからおいしく食べられるようになった」など評判がいいという。
大原さんは、「食べることは精神的な意味合いも大きく、独居となった高齢者が食事作りのパワーを無くしたりするケースも多い。きちんと栄養を取る大切さを知ってもらい、見た目にも食欲が湧く食事の工夫が大切と話している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20130428530.html