はっきりとした原因が不明なまま、強度の疲労感が半年以上続き、勤務にも影響する「慢性疲労症候群」(CFS)。国内の患者は約40万人とされる。従来、厚生労働省の研究班が策定した臨床診断基準では、患者の問診など医師の主観的な判断による場合が多く、診断がつきにくかった。このため、研究班は客観的な臨床データを得るための補助的な特殊検査方法の検証を始めており、その中から診断や治療の手掛かりが解明されつつある。(坂口至徳)
◆客観的な評価推奨
会社員のA子さん(34)は2年前に微熱と喉の痛みを自覚し、「単なる風邪」と思い、市販薬を服用した。ところが、次第に疲労感や脱力感、筋肉痛などが激しくなったことから、近くの開業医や公立の総合病院を受診。しかし、原因は分からず、休みがちの勤務状態が1年以上続いた。
その後、光をまぶしく感じ、思考力や集中力が低下し、簡単な仕事でもミスが目立つようになった。
このとき、CFSを知り、専門施設の大阪市立大学医学部付属病院を受診した。内科の血液検査など一般検査や精神科の診察の後、詳しい特殊検査を行ったところ、免疫力の低下を示す単純ヘルペスウイルスの活性化が見られ、血液中の有害な活性酸素を消す抗酸化力が極端に低下していることが分かった。
このため、医師は免疫力をつける漢方薬や活性酸素を消すビタミンCなどを処方。その結果、徐々に症状は改善し、約3カ月で激しい倦怠(けんたい)感、筋肉痛、思考力の低下が治まり、1年後には症状が安定し、復職した。
CFSは1988年に米国で報告され、日本では平成3年に厚生省(現厚労省)に研究班が発足した。
13年の実態調査では、国民の3分の1以上が慢性的な疲労を自覚し、CFS患者は0・3%と推計。最近になって、PET(陽電子断層撮影)の画像診断などで、脳機能の異常や神経系、免疫系、内分泌・代謝系の変化が複雑に絡むことが分かってきた。このため、昨年3月に発表した診断基準(指針)では、特殊検査による客観的な評価を推奨した。
◆まずは自己管理
疲労を測る客観的な評価としては、まず患者の指先の脈波や心電図の波型を周波数解析し、自律神経の機能を調べる。CFSであれば、癒やしの作用がある副交感神経系の活動が低下し、交感神経の緊張が高まる傾向がある。
次いで、腕時計型の高感度加速度センサーを付けて1日の活動量を測定。すると、CFSの場合、昼間は横たわる時間が長くて活動量が落ち、睡眠中は中途覚醒が増える。また、活性酸素の測定や代謝物の解析などから、厳しい慢性疲労の原因になる検査データの特徴が分かりつつある。
日本疲労学会理事長の渡辺恭良・大阪市大医学部特任教授は「慢性疲労は食事や睡眠など生活習慣に起因することも多く、他の病気の原因にもなる。まず、自己管理をし勤務などの都合で管理できない場合は専門家に相談することが不可欠だ」と話している。
【自己診断疲労度チェックリスト】(文部科学省研究班作成)
自覚症状から疲労度を測る方法。全ての項目に対し、全くない(0点)▽少しある(1点)▽まあまあある(2点)▽かなりある(3点)▽非常に強い(4点)-の5段階で評価し、合計点によって、「安全」(男性16点以下、女性19点以下)▽「要注意」(男性17~22点、女性20~28点)▽それ以上の点数は危険-のゾーンに分類される。
また、「◎」は身体機能の評価で、合計点が男性8~11点、女性9~13点なら要注意、それ以上は危険。
「○」は精神機能の評価で、男性10~12点、女性11~15点なら要注意で、それ以上は危険。
こうした症状が長く続くようなら医師と相談を。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/snk20130416541.html