春になり、少しずつ気温が上がるように、気分も上向きになってくる。さらに、新年度が始まって気分も一新!さぁ、がんばるぞ!…と言いたいところだが、実際はどうも違うことがよくある。
忙しい1日の終わりに「今日もよく頑張った!」と思えていたのが、「なんだか疲れたな」と感じるようになる。いつもだったら流せることが、妙に心にひっかかる。……あれ?心のエネルギーレベルが落ちているな…。そう思い始めた3月半ば、クライアントの調子が、揃いも揃ってすこぶる低空飛行。いつもは滅多にない当日キャンセルまで増えたりする。
その途端に、「あ、そっか…今年もそういう時期なんだな…」と思うのは、心療内科で働いていたせいかもしれない。
縁起でもないし、唐突に思えるかもしれないが、日本全国の自殺件数が一番多いのは何月かご存知だろうか?五月病、という言葉もあるくらいだから、なんとなく5月が多そうだが、属性や、調査年によって異なるものの、3月、4月、5月、と高い値が続く。
その理由には、本当に様々なものがあるとは思うが、この華やかな浮かれた陽気の裏で、心は沈みがちな人も少なくないのではないだろうか。むしろ、周りが明るく見える分、余計に光が遠くに感じる人がいるかもしれない。だから、五月病にならないように…と思うのであれば、今から注意しておくのが良いだろう。
「低気圧」が無意識のうちにストレスを高めている
心のコンディションに影響を与えるものとして、いくつかの要素がある。まずは、家族、パートナー、友人、あるいは職場などでの人間関係だ。些細なことのようでも、朝、仕事に行くときに気持ちよく見送ってもらえるのと、不満をぶつけられながら家を出るのとでは、少なからずその日の仕事のパフォーマンスにも影響してくる。また、家に帰って、笑顔で迎えてもらえるのと、「あ、帰ったの?」と言われるのでは、1日の疲れの取れ具合も違うだろう。しかし、人間関係は、なかなか自分の思い通りにはいかないものだ。そして、この悩みは季節を問わず、年中無休である。
一方で、同じように心に影響を与えるものに、季節性のものもある。それが、この時期に顕著にあらわれる「低気圧」。気圧の変化だけでも体には負荷がかかるのに、気圧が低下して、湿度は上昇したら、無意識の内にストレス指数は高くなる。「低気圧」という言葉は、それだけで機嫌の悪い人を指すし、雨風などで気持ちがふさぎこむような経験は誰にもあるだろう。ましてや天気予報で「爆弾低気圧」だなんて言葉を聞くときには、特に注意が必要だ。
ただ、人はこのように天気ひとつでコンディションが変わる、ということを知っているだけでも随分と楽になる。低気圧が近づいているな、と思ったら、いつもよりゆったりと過ごすこと。そして、この時のモヤモヤに関しては、思いつめずに、もう少ししたら自然とこの山を越えている、と心のどこかで思うことが大切だ。
そして、これから梅雨時へと向かっていく前に、晴れの日には、きちんと太陽の光を浴びる習慣をつけてほしい。もちろん過剰な日焼けは禁物だが、太陽を浴びることでセロトニンが分泌されやすくなるため、ストレスに対する抵抗力も強くなる。同時に、体内時計も正常に動くようになるので、良質な睡眠が得られやすくなり、それによってさらにストレス抵抗力が高まるのだ。
五月病の季節にはじまる「夏バテ」
心まで左右する食欲低下を防ぐ方法
しかしながら、人間関係や天気といった、自分ではどうにもならないものに左右されていたらキリがない。割り切りも大事だが、事前の策をとるのも大事だろう。
となると、心を左右するもうひとつの要因、脳のコンディションを整えることが欠かせない。そして、これこそが自分で心をコントロールできる貴重なツールになる。
五月病が始まる頃には、最近の日本の気候だと、もう夏バテのような食欲低下の症状も見られ始める。しかし脳という臓器は、体重のわずか2%程度だというのに、体が必要とするエネルギーの約20%を消費する、大食いの臓器だ。つまり、食事量が減って落ちるのは、体重だけではない。心をつかさどる脳も同じように影響を受け、コンディションまでもが落ちてしまうのだ。
栄養士が言うと、「はいはい」と聞き流されてしまいそうだが、食べられない、栄養を摂れない、というのは由々しき事態だ。どうしても食欲がわかないときには、味に少しメリハリをつけて、刺激を与えると良いだろう。たとえば、本連載では、できるだけ定食スタイルで、と言っているが、デスクでぼそぼそと薄いサンドイッチを食べるくらいだったら、ピリ辛つけ麺だって良いのだ(毎日はすすめられないが…)。
家の冷蔵庫にも、何かしら香辛料類はないだろうか?カレー粉やショウガ、わさび、マスタード、七味など、こんなときは栄養素目当てではなく、刺激が目的なので、チューブタイプのものだって全然かまわない。いつもの料理に少し加えるだけで良い。スパイスを利かせたような、重いものが食べられなくなっているなら、ちょっとお酢をかけるのも手だろう。このような刺激によって胃酸を分泌させ、食欲を回復傾向に向かわせることが大事なのだ。
一方で、食べている量も変わらないし、その内容も大差ないけれど、なんだかコンディションがいつもと違う…という方もいるだろう。それは、環境の変化が無意識に及ぼす心身への負荷のせいかもしれない。いつもよりも必要な栄養素が増えているにもかかわらず、いつもと変わらない食生活を送っていたら、不足が出てしまうのは自然なこと。それが良いことであったとしても、公私ともにそれなりのイベントがあったときには、いつも以上に食事に配慮する習慣が大事だ。ストレスによって失われやすいビタミンCを多く含むものを意識的に足すと良いだろう。
ただ、両者に共通していえるのは、「食べられるときには気を付けて食べよう」ということ。少ししか食べられないときに、加工食品ばかりでビタミンミネラルが少ない食生活をしていたら、それはボディブロー以外の何物でもない。脳にストレスを与えないためには栄養の不足を避ける必要があるが、食べられないから…と、サプリなどで栄養補給することによる過剰摂取も避けなければならない。
だから、体が疲れてどうしても何も受け付けないときは特別、と考えよう。乱れた食事は臓器を酷使させるが、同時に、その臓器に対して指示を出している脳だって酷使されている。疲れている脳をより疲れさせないよう、臓器とともに脳にもお休みをあげると良い。とはいっても、自己流の断食は危険なので、「今日はちょっと胃腸を休めよう」と半日くらいのスタンスでのぞむと良いだろう。
鬱々とした気持ちをアルコールで紛らわせるのは逆効果
よく怒ったときには血圧が上がる、といわれるが、ストレスは血圧以外にも血糖値の上昇も招き、代謝異常からメタボを引き起こしやすくさせたりもする。夏前に余分な肉をつけないためにも、ストレスと向き合いすぎない心の持ち方と、脳への栄養補給は不可欠だ。
また、鬱々とした気持ちをアルコールで紛らわせるのも要注意。適度な量ならよくても、血中アルコール濃度100mg/dl以上になると、結果としてコルチゾール濃度…つまり、ストレス指数は高くなるのだ。そうするとさらにアルコールを欲し、ストレスも一緒に強まってしまう。実際のアルコール代謝能力は人によって違うが、アルコール血中濃度が100mg/dlとなる目安は、体重60kgの人ならば、ビール大瓶3本。そんなに飲まないから大丈夫、という人でも、睡眠の質が下がらない程度にしておこう。寝不足は、心の抵抗力を弱くしてしまうのだから。
そして、今、この記事を読んでいるデスクでも簡単にできる、五月病未満のもやもや解消法としては、指を使ったヘッドマッサージもおすすめだ。気持ちが滞っているときには、脳の血流も滞りがち。そうなると、それもまたモヤモヤした感を生み出してしまう。こめかみから、頭の頂点まで、五本指や手のひらの腹の部分を使ってギューッと押して、パッとはなす、その繰り返しをしてみる、物理的刺激もおすすめだ。頭のこりが軽減すると、仕事で疲れた頭も少しリフレッシュされるので、デスクでははばかられるのなら、夜に髪を洗うときにするのも良し。
最近よく聞く「今でしょ!」の言葉ではないが、5月病を防ぐには、今、この時点から、自分に負荷をかけない意識をしていこう。
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