日本の医療に、各国から熱いまなざしが向けられている。研究者たちの昼夜を分かたぬ努力によって培われた技術力の高さはもちろんだが、医師らが開発途上国に出向き、現地の人々に寄り添った活動を積み重ねてきたことで勝ち得た信頼によるところが大きい。最先端の研究から健康管理や衛生面といった生活環境の向上に至るまで、世界に存在感を示す「日の丸医療」。官民挙げての取り組みも進み、外交の「新たな切り札」としての期待も高まりつつある。
日本の国際援助といえば、政府開発援助(ODA)の無償資金協力や円借款など、経済分野での援助のイメージが強い。だが、開発途上国の人々の健康面や衛生面を向上させる保健医療分野では、日本から多くの専門家が派遣され、世界に存在感を示している。
東京・新宿にある国立国際医療研究センター(NCGM)。ここは政府による医療分野の国際援助を担う“人材供給基地”だ。
「これまでに長期派遣、短期派遣あわせ、のべ3100人の専門家を世界約130カ国に派遣し、支援を行ってきた」と胸を張るのは、NCGMの武田康久国際医療協力部長。現在も8カ国に計16人が長期派遣されている=表。
日本政府による医療保健分野の人的国際貢献の始まりは、今から30年以上前にさかのぼる。カンボジア内戦で大量の難民が発生していた1979年。政府のカンボジア難民救済実情視察団の団長だった緒方貞子氏がタイ国境の難民キャンプを視察し、「なぜ、難民キャンプに日本人がいないのか」という疑問を呈したことがきっかけだった。
NCGMの仲佐保・国際派遣センター長も81年に国立病院医療センター(現NCGM)の外科医として難民キャンプに派遣された。「当時、日本から紛争地帯へ国際支援に行くことは考えられなかったが、日本の本格的な医療協力の“走り”となった」と振り返る。
日本が国家として専門家を派遣する医療保健分野の国際援助は、ここから2つに枝分かれする。
1つが、海外で地震などの自然災害が発生した際に素早く派遣する「国際緊急援助隊」。そしてもう1つが、各国の要請をもとに国際協力機構(JICA)がプロジェクトを立ち上げ、NCGMを中心に専門家を派遣する技術協力だ。
日本による技術協力の最大の特徴。それは最終的には現地の人々で問題を解決できるようになるための「人材育成」という。
現在、NCGMで重点的に行っているのは母子保健対策や感染症対策、さらにこうした対策を政策的に生かしていくための保健システムの強化だ。派遣された専門家は現地政府や医療関係者と情報を共有し、地域の実情やニーズを確認。地元住民が主導的、継続的に対策を実施できるよう問題を解決しながら人材も育成していく。
「地道な活動が途上国からの信頼を勝ち得ることになり、結果的に日本のプレゼンスを高めていくことになる」。武田部長はこう強調している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/education/snk20130103509.html