衆院選公示まであと1日。逆風にあえぐ民主党では現職閣僚も厳しい戦いを強いられている。これまで父、田中角栄元首相の地盤を引き継ぎ無類の強さを発揮してきた田中真紀子文部科学相=新潟5区=もその一人だ。初めて連合に推薦を頼むなど背水の陣で臨んでいるが、比例単独から同選挙区に移った自民党の長島忠美氏が猛追する。その長島氏と前回は同じ自民党候補として戦った米山隆一氏が今回は日本維新の会候補に。「田中王国」を支えた保守票を3氏が奪い合う異例の構図となっている。
「…それはおわびしなければいけませんね」
11月20日、連合新潟の斎藤敏明会長とひそかに会った際、平成21年の衆院選での「不義理」を問い詰められると、真紀子氏は渋々謝罪の言葉を述べた。
当時、連合は民主党移籍直後の真紀子氏を支援しようと、新潟県長岡市で集会を準備していた。ところが真紀子氏は当日になって「私は『田中党』で推薦不要」と言い出し、出席を拒否したのだった。参加者からは怒りの声が上がった。
それ以降、ほぼ音信不通だった真紀子氏だが先月6日、突然連合側に推薦を依頼した。連合への推薦要請は、真紀子氏の焦りの裏返しでもある。かつて元首相を支えた「越山会」の元青年部長など、有力な後援会幹部が相次ぎ長島陣営にくら替えした。
閣僚でありながら週に2、3回は地元入りし、こまめに回っている。前回断った比例代表との重複立候補も受け入れた。
これまでの経緯から連合事務局では「本人の知らぬ間に事務所が書面をよこしたのでは」と不信感を拭えなかった。推薦するにしても謝罪が前提とした。
一応は謝った真紀子氏だが、苦しい戦いであることを隠したいのか斎藤氏との会談翌日、記者団に「何度も連合から(推薦したいと)アプローチがあった」と強弁した。この一言に連合は反発。結局、県内の民主党候補で唯一推薦せず、「支持」扱いとした。
真紀子氏とは逆に、「地域密着型」をアピールするのが長島氏だ。
「相手は全国でも人気者だが、誰がこの選挙区に責任を持つのでしょうか!」
長島氏は2日、雪がちらつく長岡市で企業を回りながら切々と訴えた。
長島氏は旧山古志村長として住民の要望を細かく把握し、16年の中越地震を乗り切った実績が強み。
先月の決起集会に駆けつけた酒井正春長岡市議会議長は「私ですらまだ真紀子氏と話したことがない。今度こそ地域の事情が分かる議員を選ぼう!」と強調した。長島氏は過去2回は比例単独候補としてバッジを着けたが、今回は小選挙区での議席を狙う。
その長島氏の前に立ちはだかったのが米山氏だ。過去2度の選挙は自民党候補として同選挙区から出馬し真紀子氏を追い詰めた。前回落選後に政界を引退しようかと諦めていたが、維新が再出馬の機会を与えた。米山氏は「旧来型の組織に頼らなくとも、今はツイッターなどで主張を浸透させられる」と新しい選挙スタイルを提案する。
事実上、三つどもえの戦いになった同選挙区。投開票日の16日は元首相の祥月命日にあたる。やはり最後の頼みは「田中」ブランドなのか、真紀子氏は記者団にこう語った。
「(投票日に)ご先祖様のお導きがあることを願っている」(水内茂幸)
▼新潟5区立候補予定者
田中真紀子 68 文部科学相 民 前
長島 忠美 61 元山古志村長 自(伊)前
米山 隆一 45 弁護士 維 新
服部 耕一 43 党県委員 共 新
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/region/snk20121203513.html