冬の寒い時期、入浴など急激な温度変化で起こる「ヒートショック」。熱中症と同様に高齢者の命を危険にさらすもので、日本では年間1万人以上がヒートショックで死亡しているとみられる。室内の温度差を小さくするなど住まいや暮らし方の工夫で予防は可能だ。節電が求められる今冬だが、命を守るための対策はしっかりしておこう。
◆高い死亡リスク
ヒートショックは、急激な温度変化が体に及ぼす影響。室温の変化で血圧が急激に上下したり、寒さで体がブルブルッと震えたりするのもヒートショックによるものだ。
冬にヒートショックが問題になるのは、暖房が効いた部屋と暖房のない廊下やトイレとの温度差が大きいためだ。特に木造家屋では温度差が大きく、昔から高齢者が冬のトイレで脳卒中を起こすケースはよく知られている。
ヒートショックが起こりやすいのが浴室だ。今月6日、富山県の温泉施設で70代の男性2人がおぼれて死亡したのも、入浴中にヒートショックで気を失ったことが原因とみられる。東京都健康長寿医療センター・東京都老人総合研究所の高橋龍太郎副所長は「温泉施設で2人が同時に亡くなったことで注目を集めたが、ヒートショックによる死亡は家庭の浴室で起こることが多い。寒さが本番の今の時期、特に高齢者は注意が必要」と指摘する。
東京消防庁の平成18~22年の5年間の緊急搬送データのまとめでは、12月から3月の寒い時期に浴室での「溺れ」が多く、ほとんどがヒートショックが原因とみられる。寒い浴室で熱い湯船に入ることで急激に上がった血圧が、湯船でリラックスすることで今度は急激に下がる。その結果、気を失うか不整脈が起こるため、溺れるとみられる。搬送された人の9割以上が中等症(入院の必要がある)以上の症状で、転倒など他の家庭内での事故に比べて死亡リスクが高いのも特徴。
◆一番風呂は避ける
入浴によるヒートショックを防ぐには、浴室を暖めることが大切だ。入浴前に風呂のふたを開け蒸気で浴室全体を暖めたり、お湯をためるときに最後の5分は高い位置からシャワーで入れたりすると効果的だ。家族がいる高齢者は一番風呂は避け、何人か入浴して浴室が暖まった後で入るようにしたい。節電という意味では、可能なら日没前の気温が下がる前に入浴するのがおすすめだ。
1人暮らしの高齢者で、利用できる距離に公衆浴場があるなら、公衆浴場を利用した方が安心といえる。公衆浴場は脱衣場も暖かく、湯船で気を失ったとき、すぐに誰かに気づいてもらいやすい。
高橋副所長は「『これまで大丈夫だったから問題ない』と考える人も多い。しかし、ヒートショックが怖いのは、元気な高齢者が突然死亡する可能性があること。ヒートショックは誰にでも起こると心得て、十分な対策を取ったうえで入浴してほしい」とアドバイスする。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/bizskills/healthcare/snk20120118115.html