住民一人一人に12桁の番号を割り当てるマイナンバー制度で、簡易書留で届く「通知カード」に記された番号について、視覚障害者から「読み取れない」と困惑の声が上がっている。封筒には通知カードだと知らせる点字表記があるが、カードにはない。当事者らが改善を訴え、独自の支援策に乗り出す自治体も出てきた。
「1人で番号を読める視覚障害者は、まずいないわ」。堺市堺区でしんきゅう院を営む土屋昭男さん(51)は憤る。土屋さんは重度の視覚障害者で堺市視覚障害者福祉協会の青年部長を務める。通知カードが届いた仲間からは「どうやって読めばええねん」といった相談や苦情が相次ぐ。
通知カード書類の左下には視覚障害者用の音声コード(約2センチ四方)が印字されているが、スマートフォンの読み上げアプリなどが必要。スマホを使えても、音声コードの位置が分からず、1人で読み取るのは困難だ。プライバシーを守るため、ヘルパーに読み上げてもらうのも不安が残る。
通知カードが送られるのは約5400万世帯で、視覚障害者は約32万人と推計される。総務省の担当者は「全てに点字を施すには多額の費用がかかる。音声コードは『ねんきん定期便』などでも採用されている」と説明。点字シールを配るなど、視覚障害者への配慮に努めるよう全国に通知したが、対応は自治体任せなのが現状だ。
神戸市は、区役所などの相談窓口に点字印刷機計12台を用意し、職員が番号を読み上げて点字シールを提供することを決め、年明けには態勢が整うという。堺市は専門スタッフがいる視覚・聴覚障害者センターと連携して支援策を探る。大阪市と京都市は支援策を「検討中」と話す。
視覚障害者らの団体でつくる「日本盲人会連合」(東京都)は近く、行政窓口での番号読み上げや点字化などの改善策を求め、国に申し入れる。組織部長の藤井貢さん(63)は「障害者への合理的配慮を義務付ける障害者差別解消法が来年4月に施行される直前に、こうした事態が起きるのは残念。視覚障害者が置き去りにならない制度を確立してほしい」と注文する。【木村健二】
◇視覚障害者の支援策に詳しい中野泰志・慶応大教授(心理学)の話
視覚障害者に対して安心・安全に情報を提供するためには、点字や拡大文字、音声など個々のニーズに応じたメディアを確認するのが基本だが、マイナンバー制度では、その作業がなされていない。まずは個人番号の認識を手助けする市区町村の窓口を早急に設置する必要がある。番号の管理や使い方についても講習会の開催を徹底するなど、丁寧な啓発が求められる。
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