韓国で中東呼吸器症候群(MERS〈マーズ〉)コロナウイルスの感染が広がっている問題で、朴槿恵(パククネ)大統領は3日、官民合同の緊急点検会議を開いた。感染経路の確認や三次感染者への対策の重要性を強調し、「今、多くの国民が不安を感じている。これ以上拡散しないよう万全を期さなければならない」と訴えた。
韓国政府は同日、感染者が5人増え、30人になったと発表した。増えたうちの1人は三次感染という。感染の可能性があるとして隔離されている人は前日よりも573人増え、1312人になった。小学校など544校で、予防のため休校措置がとられた。
韓国当局は感染がほぼ病院内にとどまり、地域社会への拡散はないとの立場だ。しかし、すでに2人が死亡し、3人の容体が不安定だという。三次感染者も計3人になり、国民の不安も高まっている。電話相談は急増し、2日だけで1107件にのぼった。
ソウル市内ではマスクが売り切れる店が出てきた。外国人観光客などマスクをつける人も増えている。
観光にも影響が出ている。韓国観光公社によると5月29日から6月1日まで中国人約2千人、台湾人約500人が韓国旅行をキャンセルした。中国人観光客は月平均50万人いるため、今のところ大きな影響とは言えないが、今後の推移を見守る必要があるという。
大手免税店の担当者によると、ソウル市内の店舗の場合、中国人の売り上げが70~80%を占める。「(客足が維持されるか)今週、来週が山場ではないか」。韓国の大手旅行会社によると、一方で日本や米国からの予約に大きな変化はないという。
(ソウル=東岡徹)
■日本、医療機関に注意喚起
日本の厚生労働省は、MERS患者が国内で確認された時に備え、院内感染対策の徹底などを医療機関に呼びかけている。韓国では、病院内で医療者や別の患者、家族らに感染が広がったとみられるためだ。
厚労省は、疑われる患者が来院した場合、渡航歴を確認することやマスク・手袋をして接することなども医師らに求めている。
中東で広がったMERSは欧米やフィリピンでも感染者が報告されている。東北大の押谷仁教授(ウイルス学)は「日本にも入ってくる前提で対応を考えることが必要だ」。MERSコロナウイルスは現時点では、同じコロナウイルスで2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のように、人から人に効率よく感染する状態ではないと考えられているという。「院内感染対策を含む早期対応をきちんとすれば、二次感染を最小限に抑えることはできるはずだ」と話す。
国立感染症研究所ウイルス第三部の松山州徳室長は「韓国では今のところ感染が限定的で、感染経路もほぼ把握されている。韓国からよりも、感染源とされるラクダがいる中東からウイルスが入ってくる可能性のほうが高い」と語る。
(南宏美、福宮智代)
<中東呼吸器症候群(MERS)> MERSコロナウイルスによる感染症。2012年に初めて確認された。せきやくしゃみなどを通じて感染する。感染すると2~14日程度で、発熱やせきなどの症状が出る。高齢者のほか、糖尿病などの持病がある人は重症化しやすい。ワクチンや治療薬はない。ヒトコブラクダが感染源とみられている。