日本伝統の追い込み漁で捕獲したイルカの入手を続行するのか、それとも世界動物園水族館協会(WAZA)の改善通告に従ってやめるのか。日本動物園水族館協会(JAZA)と加盟する水族館などが揺れている。続行ならWAZA除名となり、海外との動物のやり取りに支障が生じる。やめれば今後、イルカを調達できずにショーなどができなくなる園も出る恐れがある。JAZAは会員の意見を集約して多数決を取り20日に結論を出す。
「イルカショーを前提に成立している水族館は岐路に立つことになる」。マリンピア日本海(新潟市)の加藤治彦館長は、通告に従う結論になった場合を危ぶむ。マリンピアでは、漁を行う和歌山県太地町からイルカ3頭を購入し飼育。イルカを展示している施設では繁殖も目指しているが、繁殖専用のプール建設などに加え、技術力も必要になる。「一朝一夕でできるものではない」と訴える。
JAZAによると、イルカの寿命は約30年とされ、改善に従ったとしてもすぐにショーができなくなるような事態にはならないが、戸惑いは隠せない。おたる水族館(北海道小樽市)の伊勢伸哉館長は「方針も定まらない」。関東地方の水族館の担当者も「結論を待つしかない」と話す。
多数決での結論決定に疑問の声もある。JAZAの加盟は、動物園が89施設に対し、水族館は63施設。イルカの飼育は約30施設にとどまる。除名となると、WAZAが扱う血統などの情報が得られなくなるほか、海外との交渉の場も少なくなる。キリンなどの動物の入手が厳しくなる中で特に動物園にとっては大きな痛手となる。「結論は明白。水族館側は不公平感をぬぐえない」。ある水族館の担当者は漏らす。
日本の伝統文化を否定することにつながりかねないとの懸念もある。
イルカの入手方法にWAZAが横やりを入れ始めたのは平成16(2004)年。台湾の年次会合で非難決議を決めたが、この際、事前にJAZAとの議論もなく採決方法も投票は行われず拍手のみだったという。
その後、JAZAはWAZAの提案に応じる形で食用と展示用とで漁を分けたり、狙う群れも小さいものにしたりと、イルカの負担軽減に努めてきた。ただ、満足な説明の場も与えられないまま、今年4月に会員資格停止が決定。岡田尚憲事務局長は「まさに、寝耳に水で残念だ」と話す。
決定の背景には、動物愛護団体からの圧力が見え隠れする。16年の非難決議では太地町のものではない残忍な古い追い込み漁の映像が使われた。その後、太地町の漁を隠し撮りして批判的に描いた映画「ザ・コーヴ」の影響でイルカなどの保護が活発化した。
こうした愛護団体の動きに合わせ、イルカ輸入を禁じる国も相次ぐ。太地町捕獲分のうち25年は172頭を販売。うち国内の水族館に回ったのは約20頭で、大半はWAZAに加盟しない中国や韓国などに渡った。
米国では約20年前から、イルカの捕獲はやめ、繁殖による手段を取る。JAZA関係者によると、30年以上飼育するシャチの解放を求めたりするなど運動は激化している。欧州でも繁殖が基本で、豪州など展示自体をやめる国も出ている。岡田事務局長は「論点が違う問題から漁が否定されていると感じる」と話す。ただJAZAはWAZAから離脱しないとの選択が多かった場合は、通告に従い漁での入手をやめるという。
甲信越地方の水族館長は「通告を受け入れると、これまで正当だとしてきた主張が崩れ、捕鯨などにもしわ寄せが出る」と指摘。その上で「太地町の漁師に手のひらを返したように『あなた方は残酷なことをしている』ということにもなる」と話した。
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