有給休暇は自分で申請して取得するものという認識が変わろうとしている。 来年4月から管理職を含むすべての正社員に、年5日分の有給休暇の取得が企業に義務付けられる方針を厚生労働省が発表した。また、週4日以上、3年半以上継続勤務していることを条件に、パート社員も一部が対象となる。パート社員は過労になるリスクが少ないと判断されたため、フルタイムの正社員とは異なる扱いとなっている。
有給休暇を申請しづらい雰因気や、自分が有給休暇を取得したために、他の人に業務のしわ寄せが来てしまい迷惑をかけてしまうという遠慮から、なかなか取得が進まないという現状がある。事実、厚生労働省の調査によれば、有給休暇の取得率は5割を切っており、取得にためらう人も7割にのぼるなど、取得促進が進まない状況だ。
■先進各国との比較 日本人は働き過ぎか
日本の年間労働時間は、他の先進国と比べ非常に長い。2011年のデータであるが、ドイツ1,413時間、フランス1,476時間、そして日本は1,747時間と300時間近く前述の2カ国を上回っている。休憩1時間を除く、9時から17時までの1日7時間労働を想定すれば、1年間で実に1ヶ月以上も多く働いていることになる。
これまでも労働時間短縮に向けて、厚生労働省は多くの施策を推進してきた歴史がある。特に1980年代の高度経済成長期に、日本人の労働が長時間だという批判の声が上がったことが大きい。これを受け、週40時間労働制の導入、みなし労働時間制、裁量労働制、フレックスタイム制など、様々な取り組みが行われてきた。
これらに加え、今回の有給休暇消化の義務付けが行われようとしている。この30年間の様々な施策により、日本人の年間労働時間は2,126時間から1,747時間まで大きく減少している。一定の成果が得られているといってもいいだろう。
しかし、本当に日本人は働き過ぎなのだろうか。ドイツ、フランスの労働時間は先述したが、OECDの調査によると、米国の年間労働時間は1,787時間と日本よりも多いのだ。米国の場合は、早朝6時から働いている人も多い。日本人が働き過ぎかというと、必ずしもそうではなさそうだ。
■労働生産性を上げるために改善策を
人口の減少に伴い労働力人口も減少していく。これから将来において日本の人口が急増することは考えづらいだろう。特に、10年後の2025年には団塊の世代の多くが75歳以上となり、介護問題が本格化していく。今でさえ両親の介護が理由で、離職している人が増えている。10年後はさらに増えるだろう。そのような人たちが有給休暇を取得しやすくなるのは、歓迎される状況だ。また、介護だけではなく、子育て中の世代も同様だろう。子どもの急な病気等で、どうしても休まざるを得ないケースは多々ある。
しかし、極端に労働時間を短縮してしまえば、企業としての競争力が落ちてしまいかねない。また現在日本で問題となっているのは、少ない有給休暇の取得率よりもサービス残業の方だろう。これが影響してか、ILO(国際労働機関)が発表している世界各国の労働生産性データによれば、2011年の我が国の労働生産性は世界で27位と労働生産性は高くはない。1位はルクセンブルク、2位はノルウェーとなっており、日本のすぐ下にはバハマ、スロベニア、スロバキア、それにクロアチアといった中欧・東欧諸国が多くなっている。
サービス残業をなくすように、日々の労働効率を上げるためのいろいろな改善策を取っていけば、自然と有給休暇を取得する余裕が生まれるだろう。サービス残業が生じる理由も有給休暇所得にためらう理由と近く、上司や同僚に対する遠慮、会社の雰囲気、社内慣行、それに会社に対する忠誠心というものが多い。従業員のこういう気持ちに寄りかかることができるうちはいいが、今後競争環境が激化していくとそれも難しいだろう。
これからは今までよりも一層、有給休暇を取得しても業務に支障がないような、経営効率の改善が求められる時代。この制度変更をきっかけに普段の業務を見直してはどうだろうか。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150219-00000001-konline-bus_all