埼玉の協会作成 イラストで処置予告
人とのコミュニケーションが苦手な自閉症の子どもたちが、災害や事故に遭っても消防隊や救急隊、救助隊から適切な支援を受けられるようにと、救助者向けのマニュアルができた。
東日本大震災をきっかけに、自閉症の人の親で作る「埼玉県自閉症協会」(事務局・春日部市)が作った。名刺サイズに折りたためるので、胸ポケットに入れて持ち歩ける。
救急隊員が子どもの右腕に包帯を巻いたり体に触れたりするイラストが説明文に添えられている。災害や事故の現場に駆けつけた隊員たちが、よく行う応急処置やお願いの内容だ。現場で自閉症の人に対応する隊員たちが使えるよう、作られた。
自閉症は脳機能の障害で、〈1〉聞いた言葉を覚えられずどう返事していいか分からない〈2〉触覚や聴覚が過敏〈3〉予想外の出来事に不安になる――などの特徴を持つ。手当てをしようとする隊員に対し、自閉症の人は返事をしなかったり耳を押さえてうずくまったりしてしまうことがある。
救急隊員は患者の症状に応じ搬送する病院を決める。だが、自閉症の人とコミュニケーションがとれなければ、症状を聞き出せず応急手当ての遅れにつながる。夜間に搬送した病院に、治療に適した診療科の医師がいない場合もある。
マニュアルには、処置の内容を「予告する」「何をするかやいつ終わるかを伝える」など、自閉症の人に安心してもらえるポイントを明記。現場では、隊員たちが自閉症の人に処置をイラストで示す。自閉症の人は受け取る情報が多すぎると混乱する。イラストは一つ一つ見せるのがコツだ。
同会は2014年4月と8月に防災訓練をした。救急経験を持つ県消防防災課職員が協力、血圧測定などを自閉症の人にイラストを見せながら進めた。見守った母親は「穏やかな雰囲気だった」と振り返る。
11年3月11日、同会長の小材こざい由美子さん(52)は外出先で強い揺れに見舞われた。留守宅にいた長男が気になり、急いで帰宅した。長男は幸い無事だったが、小材さんは「家族がそばにいない時に長男がけがをしたら、適切な手当てを受けられるだろうか」と心配になり、救助者向けのマニュアル作成を始めた。
小材さんは消防署に足を運び、イラストにふさわしい場面の助言を受けた。火災現場でマニュアルが水にぬれることも想定し、耐水性の高い素材を選んだ。
14年3月に完成し、8000部を県内の消防署に配布。川越地区消防組合では傘下の消防署の隊員たちが常時携帯する。通常の教育プログラムでは障害者への対応を学ぶ機会が少ないと考え、深く勉強する隊員も現れた。
同組合川越地区消防局救急課の新井真理子さんは「隊員たちは安心してもらおうと傷病者の手を握ったり肩をさすったりするが、自閉症の人にはかえって不安を与えかねないと気づいた」と話す。
被災者が自閉症を抱えているかを、外見から判断するのは難しい。県消防防災課は「119番通報で障害があることも伝えてほしい」と呼びかける。
04年の新潟県中越地震や東日本大震災では、自閉症の人が大声を出すなどで、避難所に行けない場面があった。生活環境が変わり、音が響きやすい体育館で不安を感じるからで、余震が収まるまで車の中で過ごす自閉症の人もいた。避難所に専用の部屋を設けてもらうのが望ましいが、周囲の理解を得るのは難しい。
小材さんは「一般の人にマニュアルを読んでもらい、自閉症への理解を深めるきっかけにしてほしい」と話している。(米山粛彦)
救助者向けのマニュアル 「発達障がいのある子どもたち&人たちへの対応マニュアル」の名称で、一般向けに540円(税込み)で販売している。自閉症の人たちがコミュニケーションが苦手な理由や背景を盛り込んだハンドブックもついている。問い合わせや申し込みは、氏名とふりがな、住所、電話番号を書き、専用の電子メール(info@as-saitama.com)へ。
(2015年2月5日 読売新聞)
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=111707