このところ食品への異物混入が立て続けに発覚し、消費者の間に不安が広がっています。しかし、報道が相次いでいるからといって異物混入が急増したと考えるのは早計です。
近年の国民生活センターへの食料品での異物混入に関する相談件数(※)を見ると400件~3500件程度と年によって大きく幅があります。また、東京都のデータによると、食品の異物混入に関する保健所などへの苦情件数は、ここ20年ぐらいで400件~1600件程度の間で増えたり減ったりしています。
食中毒などの事件が起こると消費者の食品への関心が高まり、その影響からか苦情も多くなるようで、数字上では増えているとも減っているとも言い難いです。これらの苦情は消費者が許せないと思った事例のため、消費者が黙認したケースはさらに多いのではないでしょうか。そう考えてみると、食品の異物混入は昔から非常に多かったが、これを苦情としてとらえる人が増えたり減ったりしながら推移しているとの見方をする方がよいでしょう。
現在の食品工場の衛生管理、品質管理は、昔とは比べものにならないぐらい徹底されています。その意味では異物混入の件数自体は減っているものと考えます。しかしそれでも虫やプラスチック片などの異物混入を完全に防ぐことはできません。虫は材料の野菜にもともと付着していることもあります。作業中のちょっとしたミスによる混入もあるでしょう。そしてどんなに厳しい検品体制を取っていても、チェックをすり抜けて消費者へ届いてしまう可能性は否定できません。
(※)国民生活センター 消費者生活相談データベースより
企業に異物混入の苦情があった場合、以前から企業は個別には対応しています。ただ近年はネットやSNSの普及で個人自らが情報発信できるようになったことで騒ぎが広がりやすくなった面もあり、企業が製造をとめて自主回収するような大きな社会問題までになったケースもありました。今回のように異物混入が大きく注目されたため、今までは報道されなかったような些細な事例にも注目が集まっているのではないでしょうか。
食品に異物が入っていたら消費者が怒るのは当然のことなので、これに対して企業は丁寧な個別の対応をしてもらう必要があると思います。ですが、健康被害が出る場合は別にして、リスクの大小を考慮せずに全品回収をしていてはキリがありません。特に、意図せざる異物混入は完全に防ぐことはできないため、全品回収しても同様の事件は再度起きてしまい商品回収する意味がほとんどありません。また回収による莫大なコストはいずれ商品の値段に転嫁される可能性があり、過剰反応は企業と消費者の双方にデメリットをもたらします。
また、異物混入の訴えがあって保健所が調べると、被害者の友人が被害者に対して行った嫌がらせだったケースや、被害者が嘘をついていたケースもあります。企業は虚偽のクレームなのか、本当の混入被害なのか明確に判別することはなかなかできません。特に責任の所在がはっきりしない場合は、企業は苦しい立場での対応を求められます。
あらゆるケースがあるため、消費者には厳しくも冷静な視点が求められています。
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