介護サービス提供事業者に支払われる報酬が2015年度から、引き下げられることになり、福井県内の事業所からはサービス低下を懸念する声が上がっている。国は介護職員の処遇改善に充てる報酬は増やす方針だが、事業者にとっては大幅な減収が見込まれるため、実現を疑問視する声もある。特別養護老人ホームなどの施設サービスは、単なるお世話型から、高齢者の自立支援へと変わってきている。人への投資が欠かせない中での引き下げについて、多くの関係者は「離職が進んでサービスが低下し、倒産するという負の連鎖に陥る可能性がある」と訴えている。
●おむつゼロ
東野秀子さん(82)=仮名=は、7年前に特別養護老人ホーム「水仙園」(福井県越前市萱谷町)に入所したとき、左半身まひでほぼ寝たきりだった。まずは座る練習から始まり、歩行訓練などを経て2年ほどで、つえをついて歩けるまでになった。要介護度は5から3に軽くなった。
入所当時、2人の介助で用を足していた東野さんは「見られるのは恥ずかしかった。今は何とか自分でできるようになった」と喜ぶ。機能が回復すれば、気持ちも前向きになる。山登りが趣味の東野さんは「雪が解けたら富士山に登りたい」と笑う。
同施設の入所者は87人。朝夕計45分の歩行訓練や水分・栄養摂取管理、下剤使用中止などを徹底し、昨年は入所者の「おむつゼロ」を達成した。
●高い専門性
介護保険制度が始まって15年。県老人福祉施設協議会の荒木博文会長(60)は「サービスはお世話型介護から自立支援型へと大きく変化した」と説明する。
一方で、職員にはより高い専門性が求められるようになった。同協議会は13年度から「科学的介護実践講座」を年に6回開催。「おむつゼロ」や「骨折ゼロ」「拘束ゼロ」を目指す。荒木会長は「研修や講座など人への投資はますます重要になる」と力を込める。
水仙園では、おむつゼロ達成のためにトイレを改修したり、能力に応じた歩行器を購入したりした。介護福祉士やケアマネジャーなど、職員の資格取得も積極的に行っている。三田村康行施設長(69)は「入所者の自立した生活を目指すには設備、人の充実が不可欠」と話し、コスト増は避けられないとする。
●強い危機感
介護保険制度が始まった00年度の介護費用は約3兆6千億円だったが、14年度は約10兆円。国が15年度の介護報酬引き下げを決定した背景には介護費用の急増を受けた財源問題がある。一方、人手不足に対応するため、介護職員の賃金アップに充てる報酬は確保する方針という。しかし複数の関係者は「経営が圧迫されれば、人件費を上げるのは無理。離職率が高まり、サービスが低下するという負の連鎖が始まる」と強い危機感を口にする。
帝国データバンクによると、00年~13年の老人福祉事業者の倒産件数は全国で210件。13年は46件で最多となった。同社は「競争激化による経営悪化、低賃金に伴う人手不足や労働環境悪化など雇用問題の深刻化が進んでいるとみられる」と分析する。
報酬引き下げの背景には、特別養護老人ホームが多額の内部留保を抱えていることもあるとみられる。しかしある関係者は「毎月数千万円かかる運営費を数カ月分は手元に残しておかなければ資金ショートにつながる。将来を見据え増設費や修繕費を確保しておく必要もある。報酬引き下げにより、倒産する法人がさらに増える可能性がある」と警鐘を鳴らす。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150119-00010000-fukui-l18