2014年、世界を恐怖に怯おびえさせ、8000人以上の死者を出したエボラ出血熱も収束に向かっているようだ。
一時はエイズのように世界中に感染拡大するのではないかと言われていた。確かにアフリカで支援に携わっていた人が感染し、本国に戻って亡くなったり、治療を受けて回復したりする例なども報告されたが、そこからさらに感染が大規模に広がるということはなかった。1月末にはエボラ出血熱のワクチンの臨床試験がアフリカ現地で始まる見通しとなった。
エボラ出血熱の最初の感染者は、2013年にギニアのメリアンドウに住む2歳の子供とされている。木の穴に棲すむコウモリと接触して感染し、その子供から家族に感染し、次々に亡くなったと言われている。こうしてコウモリからの感染が、アフリカで急速に広まって行った。
エボラウイルスはコウモリを自然宿主としている。自然宿主とは、ウイルスが日常的に寄生しているが、害もなく、共存している特定の動物(哺乳類や鳥類など)を指す。ウイルスは、宿主を殺してしまうと自分たちも死滅してしまうので、宿主を殺さずに伝播でんぱして増殖する。
エボラウイルス自体は非常に弱いウイルスであり、症状が出ない潜伏期間は他人に感染する恐れはない。熱や嘔吐おうと、下痢などの症状が出始めると感染する。感染力の高まった患者とじかに接触したり、亡くなった方の体に触れたりすることで、その体液や血液などから感染する。
フランスでも、現地で感染した看護師が本国に戻って治療を受けた。感染した患者さんの衣服やシーツの交換をした際に、その手で目をこすったことが原因だと考えられている。目の粘膜から感染した疑いがあるとされた。目をこすっただけで感染するほど感染力の強い恐ろしいウイルス、と一時は騒然となったが、「十分に注意すれば感染は防げるので必要以上に怖がってパニックにならないように」とフランス厚生労働省が注意を呼びかけていた。正しい知識と予防によって感染は防げることを繰り返した。
インフルエンザなどでもそうだが、このように自然宿主に潜んでいたウイルスが何かのきっかけで人間に移り、広まって行く。こうした感染症の増加の原因は、文明の利器で衛生状態が良くなり、人間が病原菌にたいする抵抗力を持たなくなったことや、食用動物、鳥類の飼育の方法や、地球の温暖化などの影響もあると言われている。
今やっとエボラ出血熱がひとまず収束に向かって安堵あんどしているが、また、どこでどのような病原ウイルスが発見されるか分からない。これからも新しいウイルスが出現し、ワクチンが開発され、新薬が開発されていくのであろう。新薬が開発されれば、薬剤耐性を持つウイルスも生まれてくる。ウイルスと人間の闘い、そして共存の歴史は長く繰り返されてきた。
今回のエボラ出血熱にしても、まずは敵(ウイルス)をよく知り、怖がらず、冷静に判断、対応することが大切なのだと思う。
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