大テーブルに相席が基本だった大学の学生食堂で「ぼっち席」と呼ばれる1人用の席が広がっている。テーブルの上に仕切りを設けて、対面する人の顔を見えなくした。1人で食事をするのが好きな学生が増えたというより、1人で食事をしているのを見られたくないという心理に配慮したようだ。(村島有紀)
■仕切りで遮断
「『ぼっち席』がなかったときは、一人で食べるのがいやで、おにぎりを買って次に授業のある教室で食べたりしていた。こういう席があるほうが1人でも使いやすい」
大東文化大の東松山キャンパス(埼玉県東松山市)にある学生食堂。バレーボールサークルに所属する2年生の男子学生(19)は、こう話す。
ぼっち席は、6人テーブルの中心に高さ約50センチの半透明のプラスチック板が設置された席のこと。対面の人の顔は見えず、カウンターに座っているような状態になる。
「ぼっち」は「ひとりぼっち」の意味で、主に友人や恋人のいない状態を指す。全375席のうち72席が、こういった「ぼっち席」だ。
同大によると、設置したのは平成24年から。学生の保護者が所属する父母会から「学食のテーブルが部活やサークルの集団に占領されている。個人利用の席を確保してほしい」という要望を受けてのことだ。
その後、運営する大学生協の回転率を上げようという経営戦略もあり、今年度から「スピード席」と命名。キャンパス内にある3つの主な学生食堂の中で、最も回転率が良くなった。
■「1人」は寂しい
学生食堂は学校内の友人関係が見えるため、1人で食事をするのを負担に感じる学生は少なくない。特に学生生活に慣れない1、2年生の場合は、友人がいないことが原因で不登校気味になることも。また、1人で食べるのを見られたくないとトイレの個室で昼食を食べる「便所めし」が話題になることもある。
学食で、1人で食べることについてどう思うかと問うと、「私は絶対しない」(1年女子)「つまらないから音楽を聴きながら、素早く食べて教室で予習をする」(2年女子)「寂しそうに思われるから端に座る」(2年男子)など。「気にしない」(同)と答えたのは7人中1人だった。
同大によると、高校までの集団生活から、大学入学後に個人で行動する生活に慣れず、「昼休みに1人で食べるのは寂しい」と相談室を訪れる学生もいる。本当に、人の目が気になる学生は昼食時に学食を利用しないケースもあるようだ。
「学食で1人で食べていることで、友達がいないと周囲に思われることを気にする学生もいる。孤立感を深めて食堂を避け、おにぎりなど簡単なもので済ますより、栄養バランスを考えた学食のメニューで、1人でも食べやすい席があるほうがいい。スピード席という名前があれば『急いでいるから』と、そこに座る理由付けもしやすい」と相談室を担当の大学カウンセラーは話す。
■ほかの大学でも…
こういった「ぼっち席」は、京都大(京都市左京区)や神戸大(神戸市灘区)にも広がる。京都大は24年から設置、神戸大は25年から六甲台キャンパスの3カ所の食堂で1割前後のテーブルの上に仕切りを設けた。
神戸大の場合は、空席を作らないのが設置の主な目的。同大生協の加藤真理子専務補佐は「6人席に2人2組が対面に座り四隅を使うと、間の2席が使われにくい。1人でも2人でも3人でも食べやすい工夫として採用した」と話す。
一部の教員からは「食事は、わいわい話しながらするもので、仕切りをつけるのは好ましくない」という意見があったが、学生からは「6人テーブルは、これまでは1人では使いにくかったが、良くなった」などとおおむね好評という。
東工大(目黒区)でも、「ぼっち席がうちにもあればいいな」などといった学生のネット上の「つぶやき」を受け、昨秋から380席のうち24席(6人用4テーブル)に特注のついたてを置き、試験運用中だ。
平野伸彦専務理事は「視線を合わせず、1人で静かに食べたいという傾向は以前からあり、時代の流れ。他大学より相席で座る学生は多いほうだが、それでも相席よりは、仕切りのある席のほうが好まれ、仕切りのある席から埋まっていくようだ。今後は、できるだけ学生のニーズにあった席づくりを考えたい」と話している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150112-00000515-san-life