バイクの死亡事故が減るなかで、中高年ライダーの事故死が増えている。全体の約4割を40~50代が占める深刻な事態だ。1980年代のバイクブームを支え、再び二輪車に戻ってきた「リターンライダー」世代。事故原因に直結する「衰え」と向き合うことは簡単でなさそうだ。
茨城県で11月、市道を走っていた40代の男性が対向車線にはみ出し、乗用車と衝突。頭を強く打って死亡した。友人たちと大型バイクでツーリングをしていたさなか。警察庁によると、現場は片側1車線の山道で緩やかなカーブだった。
昨年1年間にバイク(原付きを除く)で事故死したのは465人。2004年の675人から約3割減った。一方で、40代の死者は59人から103人に7割増え、50代も34人から67人に倍増した。今年も傾向は同様だ。
中高年の死者数が増えている大きな理由の一つがリターンライダーだ、とみる警察関係者は少なくない。仕事や子育てでいったんバイクから離れ、生活に余裕が出てきたのを機に再び乗り始めた人たちのことだ。
バイクで世界を一周し、「中年ライダーのすすめ」などの著書があるライター、賀曽利(かそり)隆さん(67)は「40~50代を中心に、リターンライダーは10年ほど前から増え始めている」と言う。
日本自動車工業会(東京)の調査では、バイク(排気量251~400cc)の新規購入者の平均年齢は05年度は33・4歳だったが、年々、高年齢化が進み、昨年度は42歳だった。
二輪車(原付きを含む)の国内販売台数が328万台を記録したのは82年。当時、ホンダとヤマハ発動機が「HY戦争」と呼ばれる激しいシェア争いを繰り広げ、「鈴鹿8耐」などのバイクレースが人気を集めた。
賀曽利さんは「年を重ね、若いときにあこがれていたバイクで余暇を楽しめるようになったことはすばらしいこと」とリターンライダーを歓迎する一方で、死亡事故の増加を心配する。
「バイクに乗ると五感が研ぎ澄まされる感じがする。老いを感じ始めた中高年も『自分はまだやれる』という気になる。気持ちは若くても、体がさび付いている人は多い。衰えと向き合いつつ、楽しむことが大切です」と話す。(八木拓郎)
■ひざガクガク、肩で息 集中力も低下
警察は中高年ライダーの安全対策に乗り出している。今月23日、警視庁が神奈川、埼玉、千葉の3県警と協力して東京都内で開いたバイク講習会。都内の中高年を対象にした講習会を11月に初めて開催し、地域を首都圏に広げた。集まった86人のうち、60人が40歳以上だ。
「40歳を超えると身体機能が昔より衰えることを自覚して、どういう運転で補っていくかを学んでください」。警視庁の担当者が参加者に呼びかけた。年齢とともに動体視力や体力、反射神経は落ちていく。集中力も低下しがちだ。事故原因には、運転操作ミスや安全確認の不徹底が目立つという。
さいたま市から参加した龍崎悦子さん(49)は乗車時の姿勢を正され、体が悲鳴を上げた。ひざを中心に内股で燃料タンクを挟み込む乗車時の基本姿勢「ニーグリップ」が、思うようにできない。「ひざがガクガク。体が動かない」。肩で息をしながら苦笑いした。子育てもあって、バイクから遠ざかること20年あまり。バイク仲間との新たな出会いがきっかけで、2年前に再び乗り始めた。今では月2、3回、ツーリングに繰り出す。
ただ、昔と比べてヒヤッとすることが増えた。信号待ちのときもバランスを崩しそうになることがある。運転の経験値が高いことは自負しているが、「若いころとは違う。それを再認識しないと」。
先月、17年ぶりに「リターン」した横浜市の会社員、横溝幸一さん(49)は「体が硬くなったし、目も悪くなった」とこぼした。スピードへの憧れは今もある。それでも、愛車に貼った「おじさんらいだーず」のステッカーを指さして言った。「己を知って余裕を持って乗りたい。目指すは大人のライダーです」(津田六平)
■事故回避、心得は
・リターンライダーは自宅の周辺を走って技術を高め、半日のツーリング、1日のツーリングと時間と距離を少しずつ増やす
・グループで走る時は運転技術が一番低い人のペースにあわせて計画を立てる。複数の休憩地点を決めておく。無理にレベルの高い人と同じスピードで走らせない
・視界が悪い薄暮時は自分の存在をアピールするライトの効果が落ちるので、普段よりスピードを時速10キロ落とす
(賀曽利〈かそり〉隆さんによる)