アンチエイジングにとって、食事や睡眠とともに大事なのが運動です。いや、運動を抜きにしたアンチエイジングなどありえないと言っていいくらいです。といってもただやみくもに身体を動かせばいいのではありません。効果的なタイミング、適切な運動というものがあるのです。
まずは何度も紹介した老化の大敵「糖化」と運動です。過剰な糖が体内で蛋白質と結び付き、発生したAGE(最終糖化産物)が血管や内臓、皮膚などに沈着して機能低下を引き起こす、これが糖化です。糖化を予防するには、食べる順序を工夫する(第3回の懐石食べ)やGI値の低い食品を摂る(第4回)などがありますが、食後1時間に軽く運動するのも大変効果があります。
食後の運動、最適なのは?
食事をして血糖値が上昇し始めるのは血管の中にブドウ糖が入ってからです。食べた食事は胃、小腸に入ってでんぷんなど糖質がブドウ糖に分解されます。それから血管の中に入っていくわけですが、15~20分で血糖値が上昇し始め、1~1時間半程度でピークに達し、2時間位で下がり始めます。このピークの時にブドウ糖をエネルギー源として使う運動を行うと、糖化が抑えられるのです。ただし、激しい運動をしては消化を妨げることになりますので、軽い運動がお勧めです。
具体的には15分ウォークとハーフスクワット20回程度をすればいいでしょう。歩くことで有酸素運動、ハーフスクワットで筋肉を使う。この組み合わせが糖化を抑制するのです。ハーフスクワットは腰を軽く落とすくらい、膝も90度曲げれば十分です。
ハーフスクワットの代わりに階段の上り降りでもかまいません。15分ウォークは昼食を外に食べに行って歩いてもいいし、食後に散歩をして7~8分くらいの距離を往復してもOKです。朝なら朝食後、通勤で駅まで歩いたり、また駅の階段を上り降りすれば、糖化防止に役立ちます。
一番手軽な運動と考えられているのが歩くこと、ウォーキングです。皆さんの中にもポケットや鞄の中に万歩計を入れたり、スマホで歩数をカウントしている人もいらっしゃるのではないでしょうか。歩くことは大変いいことです。有酸素運動であるウォーキングは生活習慣病の予防や心肺機能アップ、ストレス解消にも役立ちます。
ただし、最近は「歩く」ことが多少、過大評価されているきらいがあります。毎日歩いてさえいれば、健康長寿につながる、と考える人が結構います。でも、だらだら漫然と歩いていても駄目。
アンチエイジングには歩行スピードが重要なのです。「歩行スピードが速い人は、遅い人に比べ、寿命が長い」というデータがあります。アメリカのピッツバーグ大学などのグループが行った調査で、65歳以上の高齢者約3万人を対象に歩行スピードと生存率の関係を調べたところ、ある範囲では歩行速度が毎秒10cm速くなるごとに死亡リスクが12%低下することが判明したのです。
やってみると分かりますが、歩行スピードを上げて歩くのはなかなか大変です。心肺機能はもちろん、足腰に筋肉がついていないと歩行スピードが上がりません。ウォーキングでは足腰に筋肉がつかないので、別に日常生活で筋力をつけるための体操や動作、トレーニングを取り入れて、足腰を鍛えながら歩行スピードを上げていくべきなのです。
足腰を鍛える代表的な運動がスクワットです。スクワットとは、直立したまま膝関節の屈曲、伸展を繰り返す運動です。プロレスの鍛錬などでおなじみですよね。プロレスラーは目一杯腰を落としたスクワットを1000回以上もやるという話も聞きますが、アンチエイジングでは膝を90度ほど曲げるハーフスクワットを20回~30回やるくらいでOKです。これでも足腰の衰えを防ぐには十分効果があるはずです。
認知症と運動の深い関係
運動は認知症予防にも効果があります。脳の視床下部のBDNF(脳由来神経栄養因子)には、脳の細胞を増やし認知症やアルツハイマーの予防作用があることが分かっています。このBDNFを増加させるのが軽い有酸素運動です。1日3.2km歩けばいいとされています。1日0.4kmしか歩かない人は、3.2km歩いた人に比べて1.8倍認知症のリスクが増すというデータもあります。
握力が弱くなると、認知症になるリスクが増えます。第1回でもお伝えしましたが、老化の度合いを測るバロメーターの一つが握力なのです。握力には全身の筋肉の衰えが顕著に表れてきます。筋肉の活動が衰えると、脳の活動も衰えるのです。厚生労働省の調査では、握力の強い人は脳卒中になりにくいという結果も出ています。最近、瓶の蓋やペットボトルの蓋を開けるのに苦労するようになったという人は要注意です。
WHO(世界保健機関)は健康長寿のためには、以下の4つを鍛えるべしという勧告案を出しています。(1)筋力、(2)持久力、(3)関節の柔軟性、(4)バランス力です。
筋力は、筋肉に力を込めるトレーニングで強くなりますし、持久力は有酸素運動のウォーキング、関節の柔軟性には各種ストレッチ、バランス力には閉眼片足立ちなどの動作が有効です。
ただし、運動をするにはそれなりの準備が必要です。狭い障害物のある場所で発作的に閉眼片足立ちなどはしないこと。鍛えるにも徐々に自分のペースでやることがお勧めです。また、駅の階段があればエスカレーターを使わずに上ったり、家で風呂の掃除を買って出たり、日常生活の中でこまめに身体を動かすように、「生活の活動度」を上げていくのもアンチエイジング的にはポイントが高くなります。
筋肉を保つための食事法
食事の点では、筋肉を保つためには蛋白質が必要です。高齢になり、筋肉量の低下が気になったら、肉を食べた方がいいのです。年を取ると、肉はよくないのではと思っているとしたら、むしろそれは逆。年を重ねると、筋肉量は加速度的に減っていきますので、運動とともに蛋白質の摂取が欠かせません。
肉の蛋白質には体内で合成されないアミノ酸が含まれています。肉を食べれば体に必要なほとんどのアミノ酸が摂れると言っていいほどです。中高年の蛋白質摂取の目安は体重1kgにつき1g、60kgの体重なら60gになります。肉のほかにも魚や大豆、豆類、卵などからバランスよく摂ってください。
今回のメディカル・トピックスは、「身体の機能評価と予後」の関係です。
(1)握力、(2)歩行スピード、(3)椅子からの立ち上がり、(4)片足立ちバランスは、将来の骨折リスク、認知機能低下とどう関係するか、という調査(2011年)です。握力、歩行スピード、椅子からの立ち上がり能力、片足立ちバランス、それぞれの低下と骨折リスクは関係していました。
一方、認知機能低下と握力低下は最も関係があり、歩行スピードの低下とも大きく関係があり、片足立ちバランスとは若干相関が認められる一方、椅子から立ち上がるとはほぼ無関係という結果が出ています。中年のうちからこれらの能力の低下には注意した方がいいでしょう。
http://news.goo.ne.jp/article/diamond/life/diamond-59809.html
http://diamond.jp/articles/-/59809?page=2
http://diamond.jp/articles/-/59809?page=3
http://diamond.jp/articles/-/59809?page=4